恋する街 ―彩雲―




潮なつみ





  三、

 卒業式が終わった後の教室はやけに感傷的で、ものすごく居辛い。一生会えないような別れでもないのに、女の子たちは軒並み泣いている。確かにイベントは大切だけど、何もそこまで盛り上がらなくたって良いのに。
 などと思いながら、ボーっと席に座っていると、ふと千草と目が合った。千草が泣いていなかったので、少し驚いた。こういうときこそ、真っ先に泣いたりはしないけれど、周りが泣いていたらもらい泣きくらいはすると思っていたのに。思わず僕が目をそらしたのと殆ど同時に、彼女も視線を他にずらした。
 どこか醒めた目で教室を見渡している千草の姿は、いつか見た、駅前通りを泣きながら、しかし毅然と歩いていく千草を彷彿とさせた。けれど、そんなことももはや、僕には関係の無いことなのだろう。
 千草が「お互い、解らないものだね」などと言って電話を切ってからの数ヶ月、僕たちは同じ教室にいながらにして音信不通の関係になってしまった。だからといって、何てことはない。ただ、千草が電話をかけてくるようになる前の状態に戻っただけだ。僕は学校に来れば、相変わらず彼女を盗み見て楽しんでいた。僕は彼女にどうして電話しなくなったのかと問い詰める立場ではないと思ったし、それで良かったはずだった。
 そして、観察するのも今日で最後だ。
 千草は、それなりに評判のある都内の女子大に合格したらしい(と、教室内を飛び交う会話で知った)。全然、勉強なんてしていなさそうな感じだったのに。遊びすぎず、真面目過ぎない、そういうところも中庸である千草には、その女子大の名前は割と似合っていると思った。
 僕はと言えば、第一志望の国立大学を見事に滑った。しかし、第二志望だった都内の私立に合格したので、そこに入学することを決めた。それは、手放しで喜ぶほど嬉しいことではなかったけれど、それなりに悪くない未来を思い描ける程度には明るい進路だった。僕は、自分の進路、ひいては人生に対してまで、いつまでもこんなふうに選択をしていくのだろう、と思った。それだけだった。

 卒業式は終わっている。僕は、悲喜交々の感情が溢れ返って思わず咽てしまいそうな教室から、早々に消えてしまいたかった。だけど、当然のようにそれができない。自分が一番に教室を去る役をわざわざ買って出たいとは思わないからだ。流れによっては、また男連中でお好み焼きでも食べに行くかもしれないし。なるようになればいいから、早くなるようになれ。
 さあ、誰か「そろそろ帰ろうぜ」とか何とか言って、僕をここから連れ出してくれ、などと思って背筋を伸ばそうと思った瞬間、突然、後ろから肩をたたかれた。
 振り返ると、千草がいた。
「卒業おめでと」
 あまりに普通に声をかけられたので、僕は驚きすぎて、声も出なかった。
 今更おかしな話だけれど、よくよく考えてみると、教室で千草と言葉を交わすなんて、初めてなのだ。電話では何度も会話を重ねてきたとはいえ、もう随分間が空いた。どう接するべきか解らない。
「山口、××大学受かったんだって?」
 千草は僕の戸惑いをわざと無視するかのように(僕が戸惑う理由を、彼女は知っているはずだ)、一方的に会話を始めた。電話での沈黙は悪くなかったけれど、本人を目の前にして、しかも他の奴らの目もある教室で(誰も僕のことなど見てはいないのだが)、ひとり黙っているわけにも行かない。
「……あ、ああ、まあね」
「すごーい。やっぱ頭いいんじゃーん!」
「そうでもない。第一志望は落ちたし」
「んなこといわないでよー。めでたいんだよ。おめでとう!」
 やたらと高いテンションで、千草は一方的に話し続けた。「千草って山口と仲よかったんだ?」などという声が、どこかで聞こえた。気のせいだったかもしれないけれど、実際そんなふうに思いながら僕と千草が喋っているのを見ている奴はいたと思う。僕は、自分は人を観察するのが趣味である癖に、人に見られるのはひどく厭だと思った。
 色々な種類の緊張が押し寄せて、話し掛けてくる千草に対して、目を逸らしながら生返事することしかできない。千草はそれでも、いくつかのどうでもいいような話をして、それから、右手にボールペンを構えた。
「卒業アルバムに、メッセージ書かせて」
 先ほど配布された卒業アルバムの最後のページに、〈ここはあなたが作るページです〉などと書かれた、空白のページが用意されていた。教室で笑ったり泣いたりしながらウダウダしている奴らは、気がつけば、皆お互いのアルバムの空白ページを、メッセージで埋めあっているようだった。
「書くなよ」
 僕のは、まだ空白のページのままだったし、誰も書かないだろうと思っていた。ここで千草が書いたら、千草からのメッセージだけが浮いたように残されたアルバムになってしまう。これは、かなり恥ずかしい。何年か後に卒業アルバムを懐かしみながら見たら(そんな日が来るかどうかは解らないけれど)、最後にそのページに辿り着いて、僕は赤面したり苦笑したりせざるを得なくなるのだ。
 と、思ったのだけれど、僕はアルバムを死守することが出来なかった。
 抵抗する間もなく、千草が僕のアルバムを取り上げたものだから――なんて、言い訳にもならないか。取り返そうと思えばすぐに取り返せるし。たぶん僕は、千草が一体どんなメッセージを書くのか、ちょっと見てみたかったのだと思う。
「書けたよ」
 千草はそう言って、自分の書いたメッセージを見せた。空白ページの真ん中というわけでもなく、端っこでもないような中途半端な場所に、際立った癖も無く、それなりに読みやすい、小さくも大きくもない字で、こう書かれていた。
『結局、山口くんは何考えてるのか解らなかった。』
 僕がそれを読んだのを確認すると、千草は自分のアルバムを「私のにも書いて」と言って差し出した。
 僕は、少し考えて、こう書いた。
『いつまでも中途半端さが売りの須藤さんでいてください』
 千草はそれを読んで、少しだけ顔をしかめたが、何を思いついたのか、突然耳打ちするように顔を寄せてきて、小声で言った。
「チョーむかつくから、決闘だよ。一時に、あの公園で待ってる」
「え?」
 聞き返す間もなく、彼女はまた女の子たちの輪の中に戻っていった。僕のほうは、待ちかねたように周りの男友達に囲まれた。
「お前、須藤と仲良かったっけ?」
「会話してるの見たこと無かったけどな」
「何て書いてもらったんだよ?」
 僕が抵抗する間もなくアルバムが取り上げられた。そこに書かれていたメッセージを読んで、野郎どもはバカバカしいほど笑い、
「まあ、お前が何考えてるのか解らないのは事実だけど、気を取り直して、お好み焼きでも食いに行こうぜ!」
 などと、よく解らない慰め方をして、ようやく僕に教室から去るきっかけを与えてくれた。僕は、とりあえず決闘の前にスタミナをつけておくか、と思ってついていった。

 青のりのリベンジでもある。僕は念入りにうがいをして、鏡でも何度もチェックしてきた。とはいえ、これから何があるのかすら、解らないのだけれど。
 一時ジャストに例の公園――学校の周りにいくつか公園はあったけれど、『例の』といえばここしかなかった――に到着すると、千草は既に待っていて、確か以前来たときに座ったベンチと同じ場所に座って、卒業アルバムを開いていたが、僕に気がつくと、それを鞄にしまって、立ち上がった。
「お茶でも飲む?」
 唐突に、そんなことを言った。
「決闘は?」
「それは最後に」
 どこまで冗談なんかよく解らない言い方で、千草は不敵に笑いながら言った。
「解ったよ。で、また、この公園で缶紅茶かなんか飲むの?」
「この季節にそれは、さすがに寒いでしょ。どこか入ろう」
「そっか」
 実際には千草が言うほどは寒くない。今日は卒業式にふさわしい快晴で、風はまだ冷たいけれど、春の到来を感じるには充分だった。けれども、千草は一人でさっさと公園から出て行き、住宅街の中を歩き始めた。
「どこにしようかなあ。この辺の喫茶店って、あんまり入ったことが無いし」
 千草は、やたら迷いながら、右に行ったり左に行ったりと、落ち着かない。
「駅前通りに出れば、ファーストフードとかいっぱいあるよ。そういうところじゃダメなの?」
「そういう気分じゃない」
「卒業式だから?」
 千草は、僕の質問を無視して、やはりキョロキョロしながら、歩きつづけた。小さい路地に入ったり、また駅前の大きな通りに出たり。言葉少なにただ歩く。
 結局そんなこんなで、三十分も歩き続けて、ようやく千草が一軒の喫茶店を見つけて、「ここがいい」と指差した。駅からはだいぶ離れた場所で、入ったことも無い微妙な路地まで来て、ようやく見つけた店は、やたらと重厚な木の扉がおどろおどろしさを物語るような、小さな昔風の喫茶店だった。店の名前も『斜陽』なんて書いてあって、良くも悪くも独特だ。
「えー、こんな店がいいの?」
「文句ある?」
「いや、無いけど」
 高校生にはコーヒーなんてスタバくらいが精一杯で、こんな店は大人しか入ってはいけないような気さえする。けれど、三十分も歩き回って疲れたし、この周りには他に店もなさそうだから、僕は仕方なく重いドアを開いた。ものすごく渋い感じのマスターが、ドアを開けた僕を一瞥して、僕はたじろいだ。「いらっしゃいませ」の声くらい、ないのだろうか。やたら入りにくい店だ。
 既に一組のカップルが先客で来ているのが、唯一の救いだった。彼らは、本来の店の静けさを打ち消すくらい、会話に夢中になっているようだった。

 「あの時さぁ」
 カウンターに座るや否や、飲み物も注文せずに、千草はおもむろに話し始めた。僕は、まだ何も心の準備が出来ていなかったので、少々裏返った変な声をあげた。
「あの時って?」
「公園で缶紅茶飲んだとき」
「ああ」
 こんなに唐突に、あのときの話を蒸し返されるとは思わなかったので、僕は中途半端に、店内に視線を泳がせた。眼光鋭いマスターと目が合って、ますますたじろいだ。
「あたしのこと好きだって言ってたけど、あれって……」
「その前にさ、飲み物注文しようぜ」
「あ、そうだね。忘れてた」
 軽い口調で言いながら、千草は笑って壁にかけられたメニューを見て、奇妙なコーヒの名前をマスターに伝えた。僕は、コーヒーの種類など並べ立てられてもよく解らない。メニューとは別に小さなホワイトボードに書かれた「本日のコーヒー」という下に書いてある、長い名前のものを頼んだ。
 マスターがコーヒーを淹れ始めると、千草は何事も無かったかのように、先ほどの話を続けた。
「あれって本気だった?」
 あまりにも、ストレートな質問だったので、僕は思わず一言目に
「いや……」
 と、否定してしまった。マスターがこちらを見た。先に来ていたカップルも、会話を止めて僕らをチラッと見た(気がしたけれど、すぐに彼らは彼らの世界に戻っていった)。この店が、いやに静かなのがいけない。僕は、ことさら小さな声で弁解をした。
「違う、本気じゃなかったわけでもない。あの時は、本当にそう思ったからそう言ったんだと思う」
「じゃあ、今は?」
「……解らない」
 それ以上何を言えば良いのかも解らないし、彼女もそんな表情をした。その、丁度空気が重くなった瞬間に、千草の目の前にコーヒーが置かれた。次いで、僕の目の前にも。僕らは黙ったまま、砂糖とミルクを入れて、それを一口飲んだ。
「……おいしい」
 こんな会話の合間でも、思わず千草がそう呟いてしまった理由も解る。僕は、黙って頷いた。確かに、僕が今まで飲んだどんなコーヒーとも違う。これが、旨いコーヒーの味なのかもしれなかった。
 少し落ち着いたせいか(旨いものは、人をやわらかい気持ちにさせるのだと実感した)、今度はやや穏やかな口調になって、千草は話を続けた。
「だって、山口ってさ、私のこといっつも見てたじゃん。あの前もそうだったし、あれからもずっと。あんなふうにされたら……」
 千草はそこで言いよどんだけれど、それより先なんて、言わなくても解るようなことだった。僕だって、そこまで鈍感じゃない。
「……気付いてたんだ?」
「そりゃあ気付くよ」
「で、その真意を確かめるために、何度も電話してきたの?」
「……解んないよ」
 僕たちは、自分のことすら、解らないことだらけなのだ。ましてや、お互いのことなど、解らなくて当然だった。

 それから、コーヒーを啜りながら、僕たちはいろいろな話をした。くだらない話を続けるばかりで、千草も僕も核心には触れようとしなかったけれど。
 顔を合わせながらきちんと話をするのが初めてだというのも、おかしな話だ。電話で話すよりも少ない口数で、僕らはお互いのいろいろなことが解る気がした。顔の見えない状態でどんなに言葉を重ねても、あるいは、実質的には関わることなく姿を観察しているだけでも、確実に足りないものがあるのだと知った。何が違うのかは解らない。けれど、教室でクラスメイトと無難な会話をして、中庸な立場をおそらく意図的に守っている千草と、ここで僕だけに向かって喋る千草とは、全くの別人のようにさえ思えた。
 店内にはぽつぽつ客が入り、それぞれの客は、コーヒーを飲むだけにしては長い時間をその空間で過ごしている。初めは怖そうに見えたマスターも、徹底して何も余計なことを喋らない姿勢なのだということが解ってきて、逆に気持ち良い存在に思える。
「須藤さんってさ、いつも自分で意思表示とかしないよね。誰かに委ねる感じでさ」
「うーん、だってモノを決めるのって面倒くさいもん」
「解るよ。だけど、この店は珍しく『ここがいい』って強く言ったね」
「だって、なんかピンときたんだもん」
「その直感は当たりだな。すごくいい店だと思うよ」
 実際、居心地の良い空間の中で、僕らは思いのほか素直だった。けれど、素直になればなるほど、僕が煮え切らないことや、彼女の中庸な部分が、浮き彫りになるのだろう。それが変わらない限り、僕らはいつまでも平行線のままなのだ。
「時々ね、そういうふうに、動物的な直感が働くことがあるんだ。そういうときだけは、ワガママになるから、他のときまでチカラ入れなくてもいいなって思う」
「解る。俺も、『これだけはゆずれない』ってものだけを守ってれば、あとは適当に生きたほうが絶対に良いと思ってる」
「ふーん、なんか考え方が似てるよね」
「意外とね」
 一呼吸。電話のときとはまた違う心地よさの沈黙。緩やかに、時間が流れている気がする。何となく、こういうのは初めて経験する感覚だったような気がする。それから千草は、水が湧き出すように自然な感じで、沈黙の間に言葉を挟んだ。
「もし、さぁ」
「え?」
「もしもね、私が、山口のこと好きだって言ったら、どうする?」
「良いんじゃない?」
「何よ、その中途半端な言い方!」
 千草は一瞬、僕の背中を叩くような格好をたけれど、「って、今に始まったことじゃないか……」と自分でツッコミをいれて、小さく笑った。
「じゃあさ、……じゃあさ、付き合ってって言ったら、何て答える?」
「『良いんじゃない?』」
 僕がそう言うと、千草はあからさまにムッとした。僕は慌てて言い訳する。
「だって、付き合うって正直、よく解らないし。だけど、たぶん悪くないことだと思うし。言われたら、断る理由なんて無いし」
 それを聞いて、千草はしばらく黙っていた。僕たちより前にこの店にいたカップルが店を出て行く。僕らの背後を通り過ぎる際に、女の人のほうが僕に向かって「がんばれ、ワカゾー」と言い、男の人が「ユウコさん、若者に絡むのやめなよ」とたしなめた。僕は、思わずそれに笑ってしまった(彼女が僕に言葉をかけたこと自体も、また、推測できる二人の関係なども楽しいと思ったのだ)けれど、千草は頬を緩ませすらしなかった。
 カップルが完全に店を出て、扉が閉まると、千草が呟くように言った。
「その程度なんだよね」
「え?」
「好きなんだけど。もし相手から付き合ってって言われたら、断らないけれど。自分から付き合ってって言うほどではないんだよね。私も、山口も、お互いにね」
 彼女は、落胆したように言った。
 僕も、なぜだかそれを、ひどく残念に思った。

 随分長居をしたように思えたけれど、店の外に出てみたら、外はまだ明るかった。時計を見れば、午後三時ちょっと前だ。あの店が暗かったせいで、すっかり夕方くらいの気分でいた。僕は驚いて、思わず空を仰ぎ見、そして、叫んだ。
「あっ」
「何?」
 千草も驚いて空を見た。
「雲が光ってる。ほら、いろんな色に」
「本当だ。虹みたい。きれい」
 それから黙って、僕らは空を見ながら、少し離れて歩いた。何かを喋るべきではなかった。だから、僕は光る雲を見ながら、あれは何て言う現象だっけ、と考えた。確か、地学の先生が授業の合間の雑談として紹介していた。白い雲がきれいに色付くのだと聞いて、本当にそんなものあるなら見てみたいと思ったのだ。何だっけ、虹雲じゃそのまんまだし、虹……虹彩? いや、虹彩は全く別のものだ。何だったかな……。
 あ、思い出した。  と思ったのと、ほとんど同じ瞬間だった。
「じゃ、私はこっちだから」
 千草は唐突に、駅へ向かう道から一本反れた道へ進もうとした。
「あれ、電車通学じゃなかったっけ?」
「いつもはそうだけど、今日はバスで帰る。この街の景色も見収めだからね」
 そう言って泣き笑いみたいな顔をした千草は、僕と違う方向に歩き始めた。
「大学行っても、元気でね」
 僕は千草の後姿をぼんやり見送ったあと、また自分の帰るべき道を歩き始めた。何か、心残りだった。どうしてだろう。何が心を引っ張るのだろう。あの喫茶店で、僕らは何を確認したんだろう。
 『その程度なんだよね』と。
 『お互いにね』と。
 千草は落胆したように言って。
 僕も落胆したような気持ちで。
 それが結論なのだろうか。
 本当にお互いがそう思うのならば、本当にそれで五分五分ならば、僕らは落胆する必要などないはずなのに。優柔不断な僕は、中庸であろうとする彼女は、落胆する裏に隠れる本当の自分の気持ちにすら、気付いていないのだろうか。望んでいたものと違う現実があるから、人は落胆するものなのだ。じゃあ望んでいたものって何だ。僕らが心の底から優柔不断で中庸なのであれば、僕らの望んでいるものだって、具体的な像を持たないはずなのに。そんな曖昧なものは、僕らを裏切らないはずなのに。
 それは多分――。
 僕は、そう思い立つや否や、さっき千草と別れた交差点まで戻って、千草が歩いていった方向へ走り始めた。意外と情熱的な自分に驚きながら、まあこういうのも受け入れてみれば悪くないんじゃないか、なんて思う。
 大丈夫、たぶん、まだ追いつくはずだ。彼女は、彩雲を眺めながら、ゆっくり歩いているだろうから。

(終)