サイト | 10-minute novels とうやまりょうこ短篇選 |
作品 | 下車 |
話を逸らして、このサイト全体のことから始めようと思う。 作者はネットと文芸の間の問題を考えている人だ。ネット文芸の批評や同人活動を通して、「新しい形の芸術」を模索しており、僕個人も様々な示唆を受けた。 一般の日記や文章をアップしているサイトと「文芸サイト」との間には明解な差異がある。一言で言えば、「どのレベルの読者を想定するか」ということがそのサイトの位置を明確にするのだ。作者自身が想定する読者を混在することによって、その線が曖昧になるだけだ。 創作者としては、明解な読者像さえ想像できればそれでよく、また読者にとっては信頼に足るリンクがあれば良い。そう僕は思っている。 この「下車」を読む。 物語は単純で、かつての同級生と再会し、憤る、というだけの話だ。短いながらも状況が明確であり想像は容易く、ヒロインである主人公が喋る台詞にはカタルシスがある。とても爽快だ。 このようなものは「作品を作り上げる」文芸者の小説よりも「話さずにはいられない」「ぜひ話したい」という個人的な文章に近い領域にある。 読者はまず感動し、そして作家性を追求する。この「下車」は作者の力量の一端を示す良編だろう。 (神田良輔) |