サイト ヒビヤブンコ
作品 海の底でうたう唄

 乙女心くすぐられる、このタイトル。『海の底でうたう唄』。一体、誰が歌えるっていうの、呼吸することもできない水中で。主人公は魚なの? それとも人魚? なんて気持ちでタイトルをクリックすると……。
――なんとも やりきれない 気持ちだけ 残ってんだよ
え? 主人公、乙女じゃないの? この口調。
 読む前から謎めいていて、わくわくしちゃうこの作品、実はもう一つ仕掛けがあって、話は名画座から始まります。名画座ってあの、2本立てでいわゆる“名作”を上映する安い映画館(※作中では3本立て)。シネコンブームに押されて、街から姿を消しつつある名画座。あれ、その名画座が「海の底」なの? って。それは読んでからのお楽しみ。
 ところでこの組み合わせ、素敵でしょ?「海の底」「やりきれない」「名画座」。それぞれに雰囲気たっぷりの単語で。こういう小物使いのセンスが抜群なのです、この著者は。その上、話の筋がしっかりしているので、吸い寄せられるように読めるのね。で、読後、私の中に残ったのは、「なんとも やりきれない 気持ち」そう、実は苦く切ない恋愛小説だったりして。

 ちなみにこのサイト『雨プリン』もおすすめなり。
(伽沙鈴)