サイト 『 深夜2時、いま君がいる場所 』
作品 「ねえ、今やっと気付いたことをみんなで話そうよ、ライ麦畑かなんかでさ」



 本家『ライ麦畑でつかまえて』は好きじゃない。「大人はみんな嘘つきだ!」っていう、異議申し立てが青臭いから。もう50年以上も前に出版されたそれを“永遠の青春小説”だなんていう人もいるけど、どうだろう。反抗するに値するほど強い大人などいない今、 そこに青春も共感もないと私は思う。
 ときに本作は。本家「ライ麦」特有の違和感が一切ない。古臭い時代背景も、見たこともない異国の“麦畑”も、ありきたりな大人と の葛藤も何も。
 主人公・僕は、友達とクラブに行って、誕生日のカウントダウンをすることになる。そこで一人の少女と出会い……。という展開は、文字通り私たちの「今」を切り取った感じ。おそらく作者と同世代の私に、この作品を包む空気は、何の抵抗もなく流れ込んできて、読後ほんの少し懐かしい気持ちにさせる。いつの間にか「そういえば……」と自分の体験を思い出してしたりして。偉そうな大人がいなくなった50年後のライ麦畑は、こんなふうに、なんとなく過ぎていく。
 この作品の読みどころはもうひとつ。面白いほど本家「ライ麦」 そっくりの文体。思わずニヤリとしてしまうが、読み進めていくう ち、ヒヤリとする。リアルで冴えている描写に気づくからだ。
 「予定調和な勧善懲悪なんて、もはやどうでもよくない?」というみなさま、このサイトはほかにも「今」を切り取った珠玉の短編満載です。ぜひ。
(伽沙鈴)