サイト Frozen Rain Drop
作品 【 黒い石の話 】



   彼女がくれたのはチョコレートの原石――。
 うそのようなホントのような話。貴重なその原石について一生懸命に語る彼女と、その冗談につきあうつもりが次第に引き込まれていってしまう僕。説明しながら彼女がスプーンでコーヒーカップをかき混ぜる音が、BGMのように全篇を心地よく流れる。
 恋って同じ空想を共有したり、受け止めたりっていうことなのよね。と、初恋のようなやさしい気持ちを思い出させてくれる一篇。一言で表すならば、スィートでファンタスティックな恋の物語、ということになるだろうか。
けれども、マシュマロのようなふわふわと甘ったるいだけの物語を想像してはいけない。ちょうどチョコレートがその甘さの中に、ほろ苦さを秘めているように、作品の細部にはリアルで正確な描写と、ただのファンタジーには終わらせない“つじつまあわせ”が利いている。
「でも、一つだけ注意があるの」
彼女が言ったこの台詞がポイント。さてさて、どんな注意か想像しながら読んでみよう。


(伽沙鈴)