上松 弘庸


 顔の無い人形が笑う。ケセラセラ。気ままに時の流れに身を任せる。顔、顔、顔。顔は何処だ、ケセラセラ。
 崩れ落ちるビルの中で響く戦争の足音。そうか、足りないものは何も無い。満たされぬ心が憎悪の渦に飲み込まれようとも、僕等は地雷を踏み踏み、飯を喰らう。血の味のしない人肉を、幾ら食べても満たされぬ。白痴を殴る。殴る。殴る。まるで悪霊に取り付かれたみたいだ!地下に設置したシェルターで起こる酒池肉林が米兵によって邪魔される。コンピューターマシンが応戦。ワレワレハ、タタカイタクナイ。涙と涙の隙間にある狡想の底の底に潜む欲望に満ち満ちた悲哀の蒼、蒼、蒼。ワレワレハ、ハクチデアル。まるで泡沫の記録。存在意義の復活。進化した敗者。魂は涸れ果て、最後の一枚の外套も奪われ、やった手にした幸福。見せ掛けだけではあるが完璧な幸福。それに比べて、一体海の向こうに何がある?そう、海の向こうには戦争がある。海の向こうには戦争があるが、しかし我々は日本人だ。戦を望まぬ日本人だ。貴様は何だ?貴様は血と骨の塊。平和という概念の無い存在。心貧しき者よ、此処から去るがよい。用が無いなら去るがよい。貴様が去れば、我々は満足になるであろう。何故我々を満足させぬ?何が望みなのだ?何を願う?願い、それは、祈り。聖なる祈り。しかし、幾ら祈ってみても、貴様の罪は拭えぬだろう。それに、我々はコンピューターマシンなるがゆえ、祈りを知らぬ。しかし、真実は我にある。一握りの真実をどうかお受け取り下さい。さあ、これを奴等に向かって投げつけてやるのです。孤独なる旅人よ、必ず罪は罪で償わせるのです。悲しみに包まれた大地に希望の爆弾が投下される。偉大なる抑止力に狂喜する民。フィルターを通して彼等の瞳の中に映っている、爆撃のレイトショー。こんなもので満足して頂けますか?さて、気になる希望の爆弾のお値段の方ですが…
 顔の無い人形が笑う。ケセラセラ。気ままに時の流れに身を任せる。顔、顔、顔。顔は何処だ、ケセラセラ。

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