境界線



永瀬真史




 昼休みに友達と明日ボーリングに行く約束をした。いつものハイテンションで友達の輪の中に入って行くと休日はどのように過ごしているかという話をしていた。皆それぞれいろんな過ごし方をしているようでバイトで1日が終わるという奴もいれば部活をやったあとに駅前まで行って買い物をするという奴もいた。皆、充実した休日を過ごしているようだ。俺はというと何をするわけでもなく、昼過ぎまで寝ているせいか何処にも出かけることなくボーっとしている事が多い。そのことを話すとどうなるだろうかと一瞬考えた。多分、場のムードが冷めてしまってせっかくの楽しい話がつまらなくなってしまうか「お前ひきこもりかよ(笑)」とかいっておちょくる奴が出てくるかのどちらかだと思った。言うべきか言わないべきか。少し迷ったがいつも場の雰囲気が読めずムードを下げてしまう事がよくあったので、いつもの事だと思い許してくれるだろうと言うことにした。


「俺は、いつも休みの日は昼過ぎまで寝てて起きるともう夕方だったりする事がよくあるんだよね。だから何をする事も無く1日を過ごす事が多いんだよね。」


すると予想通りに「マジかよ!!」とか「うわぁ、休日の意味がないじゃん!!」という反応が返ってきた。一応場の雰囲気を盛り下げる事はなかったようだ。ここは話を盛り上げようと思い冗談っぽい声で言った。


「俺ってさぁ、休日に遊びに誘ってくれる友達がいないから家にいるほかにやる事無いんだよねぇ」
「うわ、出たよ休みの日に家に一人でいるなんて寂しいねぇ。ひとりで遊びにいったりしないのかよ?」
「駅前とか行っても何もする事がないから家から出ようと思わないんだよ」
「お前さ、少しは自分から友達を誘ってみろよ」
「だって、今話してたみたいに皆忙しいんだろ?それにどうやって誘えばいいか分からないし…」


すると、皆は急に黙り込んでしまった。俺は場の雰囲気を盛り上げようとして盛り下げてしまった。こういう時に自分の場の雰囲気を読む能力の無さにいつも腹が立ってくる。沈黙が嫌いだから盛り上げようとするのに逆に沈黙を生んでしまう。損な性格なんだなって思った。すると、いつも話の聞き役にまわっているあまり目立たない奴が提案をした。


「じゃあさ、明日みんなで何処かに行かない?ちょうど明日休みだし僕も予定が無いから。」


まさか、こいつが自分から話のネタを振るとは思っていなかったのかしばらく無言のままだった。しかし、次第に皆が賛成しだして明日ボーリングに行く事になった。ボーリングだったら皆で盛り上がることが出来るし、友達同士で集まる事も少ない俺も馴染みやすいだろうと考慮してくれたのだろう。

実は昔俺は静かな少年だった。今みたいに声を張り上げてみんなの前で話す事なんて考えようとも思わなかったからだ。話し掛けられてもどうやって受け答えしていいかわからなかったしそれをする事自体に苦痛を感じた。でもその反面、自分だけクラスので取り残されているような感じもしていた。何故自分はここにいるのだろうか、別にいなくてもクラスに影響があるわけでもないし気付かれないだろうと思った。でも、その考えも歳をとるにつれて薄れていき、みんなの輪の中に入っていきたいと思うようになった。

中学を卒業して高校入学と同時に俺は明るい男を演じ続けてきた。すると、自然と周りから話し掛けられるようになったり自分から話し掛ける事が出来るようになっていった。要するに気の持ちようで解決できる問題だったのだと思った。自分が話したいと思っている事を周りにアピールすれば、それに周りは答えてくれる。当たり前のようだが今まで分からなかった事実。それがわかると次第に学校生活が楽しくなっていった。しかし、学校で話すことはあっても今までどおりにプライベートで会ったりする事は無かった。家に帰れば以前のようにひとりテレビゲームをやっていれば楽しいと思っていたし、クラスでみんなと話す話題にもなっていたからそれでいいと思っていた。最近になってそれが間違っていたのかもしれないと思うになった。友達が休みの日に友達同士でカラオケに行ってきたという話を聞いたりすると、自分も一緒に行きたかったなと思うようになった。その時に自分も行きたかったと話せばよいのだけれど、その時だけ昔の頃のしゃべれなかった時と同じ様に何も話せなくなってしまうのだった。


俺はこいつらともっと仲良くなれるだろうか?いや、少なくても俺はなりたいと思っている。今までは誰かが遊びに自分のことを誘ってくれる事は無かった。でも、今は誘ってくれた。きっと親しくなれる、親しくなりたい。本当の意味での友達に、いや“友人”になりたい。


俺は今変わろうとしている