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届かない耳、発さない口
2002/09/01 起きたら、シンヤは隣に居た。それが自然にみえておかしくて、わらえた。シンヤは、今日で夏休みが終わる、と言って残りの宿題をやっている。あたしは部屋に置いてもらっているお礼に、ごはんを作った。あたしができるのはこれくらい。 2002/09/02 シンヤは夜、コンビニでバイトをしている。昼間は学校に行っていてできないし、夜の方が賃金が高いそうだ。シンヤは６時に帰ってきて、それから９時に出掛けて行く。シンヤにもっと会っていたくてあたしはシンヤに会いに行ってみた。ら、叱られた。遅いんだから、と言って。だけどシンヤはバイトの時間まで待っててと言い、手を繋いでふたり帰った。手を繋いだ場所がやけに熱かった。 「一緒に暮らそう、よければ」 シンヤにそう言われた。嬉しくてたまらなかった。 「ありがとう。じゃあ、あたしも家賃を払う」 シンヤはそれに抵抗したけれど、あたしがそれを許さなかった。 2002/09/03 まだまだ雰囲気は夏だ。ぼんやりとした暑い光が窓から入ってくる。お金はどうしよう。シンヤと暮らすこの家は、汚い家にしてはいけない、と思った。どこかで正式にやとってもらおうか。もらえるだろうか。 2002/09/04 求人雑誌を買った。夜の仕事ならいくらでもあるのに、と肩をおとす。じっくりと読み込もうと思う。１日中暇だから、朝から夜まで働ける。 2002/09/05 古着屋『Allana』で、求人されているのを見てすぐに応募した。すると、今日からいいですか、と言われ、無事働ける事が確定。着ている服がいけなかったのか、その店で売っている古着に着替えてから店に出た。上手にセールスして、と言われた。あたしは近くにいたサラさんのセールストークのマネをした。サラさんは頼れるヒトで、「困った事があったらいつでも言って。セールストークは、あたしのを見て勉強してくれていいからね」と言ってくれた。早くシンヤ、かえってこないかなぁ。話したいよ。今日の事。 2002/09/06 サラさんは、オレンジブラウンの髪に、白い肌をしている。恋人に染めてもらったらしい。お昼休みに、サラさんと色々話をした。サラさんは、高校１年の時妊娠してしまい、その時に相談した友達がひどいやつで、みんなに喋って噂になってしまい、退学をやむなくされたらしい。その時にサラさんは中絶をせずに、子供を産んだ。今、サラさんはその子供とその父親と一緒に暮らしている。あたしはその話に驚いた。 「え、じゃあ結婚なさってるんですか」 「そうだよー。みえないっしょ。子持ちだよ」 サラさんは笑いながら答えた。子供さんは今、小学生。 それってすごい。子供を殺さずに、かつその時愛したヒトとずっと一緒にいるなんて。 2002/09/07 今日は、シンヤは学校が休み。そしてあたしも、Allanaが休みだから、シンヤとふたりくっついてすごせる。シンヤに、お店であったコトを報告した。シンヤはお菓子を手にふむふむと真面目にあたしの話を聞いてくれる。あたしはそれが嬉しくてどんどん話す。あたしはシンヤの学校での生活を聞く。シンヤも話す。今日は、ふたりでおしゃべりばかりしていた。今日の天気がどうだったか、なんてわかるはずがない。 2002/09/08 サラさんが割り当ての日じゃなくて、ほとんどあたしがひとりでやった。緊張した。セールスはできない、おつりはまちがえる、最悪。むこうでゆっくりしている店長に怒られた。 2002/09/09 お店にでたくないなぁと思いながらも、出勤。サラさんがいて、「昨日はたいへんだったらしいねえ、ごめんね」と笑った。サラさんは、昨日は家族で動物園に行ったらしい。子供さんは、ペンギンゾーンにひっついてはなれなかったらしい。それを思いだして、サラさんは、ふふふと笑った。 2002/09/10 今、Allanaにいる。休憩中。さっき店に来たカップルの男の方にナンパされた。女はなにをしてるんだって思った。明らかにこっちに気付いているはずなのに、何も言ってこない。なんで？早くシンヤに会いたいよ。早く帰りたい。 2002/09/11 シンヤが夜、帰ってきたら頭をなでてくれた。相変わらず、シンヤの指はとても太い。あたしは髪の間を通るその感触が気持ちよくてやみつきになってしまう。シンヤはあたしの身体を求めようとはしない。どうしてなのかなぁ、と考えた。 2002/09/11 今日、あたしが服の説明をしたお客さんが、その服を買ってくれた。嬉しくてしかたがなくて、シンヤに早く知らせたい気持ちでいっぱいになった。そのまままっすぐ家に帰らずに、シンヤが働いているコンビニに行った。シンヤはあたしに缶コーヒーをくれて、一緒に乾杯をした。嬉しい日！シンヤが終わるのを待って、一緒に帰った。明るい夜だった。 2002/09/12 夜の露店で、シンヤとお揃いのネックレスを買った。クロス。あたし、絶対にはなさない。 |