fragment -6 人物 ・<web-writer> ・<yeko> ・ウェイター ・ソープランドの女の子 状況 [8インチのモニター上] -------------------------------------------------------------------- はじめまして、web-writer。 あなたの、村上春樹さんの小説を取り扱った文章を拝見させていただきました。 あなたが村上春樹さんを、深く、深く愛している様子がとてもよくわかる文章だったと思いました。 あなたがどれほど言葉を尽くし、村上春樹さんを貶め、無価値だ、と叫んだとしても、 彼の影響はあなたにとってとても深いものであるように見えるし、 それはまた、あなたが身を切って、彼に別れを告げようとしているせつなさを、 私に感じさせました。 そういえば、K.Vonegatは今はどうしているのでしょうね。 あなたの文章を読んでいると、思い出されます。 time quakeはとても悲しく読みました。 ああ、これが70歳を越えた人が、最後に書く本なのだ、と思って以来、 私はそのpaperbackを、見るたびに、悲しかったです。 彼の今のことはなにも、私は知りませんが、 いつか、彼は、おそらく私たちより先に、死んでしまうのでしょう。 それがとても悲しい。 そんなニュースは、世界を飛び回らないで欲しい。 あなたはvonegatをただの老人、と切り捨ててしまったように、 偉大な、村上さんは、いつかあなたは切り捨てることになるのでしょう。 私にはわかりました。 あなたは強い意志とすばらしい能力があって、 ゴッホがゴーギャンを切り捨てたように、 あなたは次々と、切り捨てることに成功するのです。 私はそれを思いながら、 あなたの今後も見守って行きたいと思っています。 私の生が続く限り。 最後になりましたが。 私は<yeko>ともうします。 -------------------------------------------------------------------- レストランでサンドウィッチをつまみながら、<web-writer>はこの手紙を受け取る。 やりかけた仕事を脇目に、彼は手紙を読む。長い時間がかかる。サンドウィッチを置き、たばこを一本吸いきってしまう。 エキセントリックでセンチメンタルな手紙だ、と彼は思う。きっとこの人は、エキセントリックでセンチメンタルな人なんだろう。人前で喋るよりも、多くのことを感じ取り、考え込んでしまう様子が、彼には想像できる。ああ俺の仕事は、こういう人が見ていてくれているのだ、と彼は思う。 その手紙をメールボックスに納め、彼は仕事を再開する。 その仕事はほとんど完成しており、後はそれに細かな修正を加えればいいだけだ。彼はそうすることを心がけるようにしている。以前、彼は自信を持って作った仕事を持っていったことがある。自分では、これ以上ない仕事をした、と思った。俺はこの仕事で、認められるようになるのだ、と思った。しかし、それは認められなかった。自分で読み返してみたら、確かにそれはロクなものになってなかった。膨大な意図を込められているようにも見えるが、それ以上に構成がばらばらだったし、文章はなってなかった。彼は、愕然とした。俺は他人に理解させようとつとめなければいけない。つまりは、それが仕事なのだ。と思った。 それ以来、彼は丁寧さに重きを置くことにした。隅から隅までチェックを入れ、汚れている部分がないか、誤った部分はないか、雑に流してしまったところはないか。一つ一つ丁寧に、かつての学級委員の女の子のように、と、彼はこの作業をやりながら、いつも考えている。 「お客様」 彼は顔をあげる。ウェイターだ。 「なにかお申し付けになることはございませんか?」 きっちりした笑顔でウェイターは話しかける。いくぶん形式的な笑みだ、と<web-writer>は思う。しかし、そこには意志がある。それに、彼は勇気づけられる。このウェイターのシャツは少し青みがかった青色で、そこには染みも、皺も一つもない。 「コーラをもらえますか?」 「かしこまりました」 ウェイターはやや頭を傾け、伝票になにかを書き込み、そして頭をさげ、立ち去る。 「あら?<web-writer>さん?」 仕事に戻ろうとした彼は、声に振り向く。彼の行きつけのソープ・ランドの女の子が、そこにいた。 「やあ」 狭い個室で会う時の彼女とは、また違った印象を、彼はうける。ジーンズで、化粧気がない姿。豊かな胸の膨らみと窪んだおなかは、まったく隠されている。 「食事かい?」彼は尋ねた。 「ええ。今日は仕事を早くあがったんです。なんだか、疲れちゃって」 そう言って、彼女は笑う。 「大変だね」彼は答える。 「また、お店にいらしてくださいね。私、お店であなたに会うの、イヤじゃないんです」 おもしろい言い方だ、と彼は思う。 「わかった。今日はあがったのなら、明日にでも行くよ」 「待ってます」 完璧な笑顔で彼女は答える。 ←_ |