手締め



 「皆さん、大変お忙しい中お集まり頂き、真に有難う御座います」彼は言った。
 「今回は、東京文芸センター1周年企画「20本の手」に参加してくださって、大変有難う御座いました。お蔭様で企画は大成功する事ができました。大変優秀な作品をお寄せ下さった皆様方には大変感謝しています」
 東京文芸センター。私が参加した文芸サイトである。固定メンバーは居ないらしい。今話しているのも取り合えずの代表者だ。
 「ご存知の通り、東京文芸センターは毎月1日に更新している文芸サイトです。皆様には今回の参加だけではなく、是非機会があればまた参加して頂きたいと思っています。参加は毎月ではなくても結構です。数ヶ月に1回、或いは不定期、更には1回限りの参加でも結構です。また時間に余裕ができて、創作意欲が沸いてきましたら是非是非投稿して下さい。また、皆さんのなかで誘いたい書き手がいらっしゃいましたら勿論お誘い下さって結構です。東京文芸センターは文芸作品であれば、小説、詩、コラムなど幅広いジャンルで受け付けます。更に…」
 彼の話はまだまだ続いた。よく喋る男だった。私は多少の興味と好奇心に駆られながら聞いていた。
 「…僕も今の所毎回参加していますが、忙しくなれば暫く参加しなくなるかもしれません。ですから皆さんも時間に余裕がある時にでも作品を書いてもらって、それを東京文芸センター宛に送ってくだされば結構です。毎月参加する義務はありません。でもまぁ僕などは忙しくても小説を書き続けるでしょうがね。僕にとって執筆活動は趣味のようなものです。苦しい時や辛い時もありますが、生き甲斐でもあります。この中にもそういった方々はいらっしゃるんじゃないでしょうか?」
 「俺もそんな感じだな」「あ、私も」と皆が言い始めた。緊張して強張っていた参加者の顔には微笑みが浮かび始め、徐々に騒がしくなってきた。
 「ですから僕はそういった方々により沢山集まって頂いて、様々な作品と一緒に僕の作品を並べていきたいのです。しかし、気を付けてもらいたいのですが、ふざけた気持ちで参加してもらっては困ります。インターネットに蔓延する軽はずみな悪ふざけや、性質の悪いブラックジョークは勿論ですが、僕の言いたい事はそんな事じゃないんです。自分の持てる力を出し切って、最大限に高められた優秀な作品を投稿して下さいと言う事です。勿論、良い作品を作れるかどうかは個人の能力にも依ります。勘違いしないでもらいたいのですが、僕が言いたいのはその時点で自分の書ける最も良い作品を希望している、という事です。どの作品が優れているかは最終的には読者が決める事です。しかし、読者に読んでもらう前に自分が納得いく作品を持ち寄ってください。僕は東京文芸センターに投稿する作品は、常に前回の自分の作品より優れていると思えるまで何度も手直しをしています。ですから皆さんにも以上の事を希望したいのです。今回の全作品は間違いなく優秀な作品でした。しかし、次回参加する際は今回の作品より優れていると自分が感じた作品を是非お願い致します。これが東京文芸センター唯一の参加条件です」

 何時の間にか周りは静まり返っていた。
 皆の顔からは再び微笑が消えていた。私の顔も強張っているのだろうか。
 「皆さん」彼は続けた。

 「これから僕達と一緒に創作活動をしていきませんか?」。

(上松 弘庸)