訣別の朝




ゆめ






君を街で見かけた時、正直言って僕はびっくりした。
君は、僕といる頃よりもずっと綺麗だったから。
君はまるで別人のようだった。
僕は安心したよ。 今、君が幸せでいることに。いい恋をしていることに。
君の笑顔は本当に素敵だった。
でもね、本当のところ、僕は悔しくもあった。
なぜ、僕らはあんなにもお互いのことを傷つけ合ってしまったのだろう、と。
なぜ、今の君の隣にいるのが僕でなかったのだろう、と。
あの頃の僕らは、あまりに幼かった。
自分のエゴを押し付けることが愛だと勘違いし、お互いを縛りつけ合っていた。
大切にしたいと思うあまり、僕らはお互いの手を強く握り締めすぎていたんだよ。

今の僕だったら。
今の僕だったら、君のことを幸せにできたのだろうか?

「久し振り。元気そうね。」 そう言って笑う君は、そんな馬鹿な僕の思考も見抜いているようだった。
あぁ、わかっているよ。 僕と君は別の道を歩み始めた。 もう交わることはない。
君の幸せを願うこと。 僕の幸せを願うこと。
それだけが僕らに許されたこと。そうだろう?
大丈夫。わかっているさ。
だからこそ、僕はあのとき、君に握手を求めたんだ。
もう愛する人の手を強く握り締めたりしないように。
君の手は、もう他の人のためにあることを確認するために。

それは、数秒にも数時間にも思える時間だった。

僕らは何も言わず、ただただお互いの手を確かめ合った。
そして、僕らはそれぞれの待つ生活へ戻っていく。
愛しい君よ。 今までありがとう。
僕は君のことが本当に好きだった。 これからもそれは変わらない。
僕の手に、君ではない人の手がつながれている今も、毎日君の涙しか見ることができなかった昔も。
僕がこの世で愛したのは君だけだ。

僕の愛しい人。
さようなら。そして、御幸せに。