後記
 


 ごく個人的な話をしようと思う。

 少なくとも1999年くらいまでは、私はテキスト系サイトというものに夢中になっていた。上手い文章、饒舌な文章、個性的な文章。ごく普通のアマチュアが書く文章なのに、こんなに面白いものが転がっているなんて、インターネットって何て素晴らしいんだろうと思った。私も感化されて、それまで文芸中心でやってきた個人サイトを、デイリーテキスト中心に構成しなおした。リードミーだの何だのに登録して、それっぽいテキスト系サイトが仕上がって、気が付けば沢山のお客さん、気が付けば沢山の空メール、気が付けば沢山の無断リンク。是非会ってみたいと言われてオフ会に誘われて、知り合いは増える一方で、それがまた新たな読者を創り出し、皆が褒めてくれて、ありがとうありがとうありがとうの日々。
 だけど、もう飽和だろう。絵が書けなくても音楽が出来なくても、およそ日本の義務教育を受けてきた人間であれば誰でも文章は書ける。簡単にサイトを作れる昨今、テキスト系サイトは私たちがこうしている間にも増え続け、その狭い世界の中でジャンルはさらに細分化し、当然のことながら読者も分散。気が付けば、とても狭い世界になってしまった。
 そういうのがやりたい訳ではなかったのに、と思い始めた頃に、「東京文芸センター」なる複数の書き手による文芸サイトを立ち上げるという話を聞き、是非参加したいと表明して、私は初期段階の著者メンバーに加わる事と相成った。今思えば、全てが数奇な巡り合わせだったのだけれど。

 月一回だけ更新されるこのtbcも、第8号を迎えるに至った。実に年の3分の2が過ぎたわけだが、その間に始まった連載は終わり行き、また新しい物語が始まり、著者陣も次第に入れ替わっていく。私が此処で書き始めた小説も、一応は終焉の形を迎えたので、私はこれからどうしようかと考えた。まだ成せる事がありそうな気がするので、今は此処を離れる積りは無いけれど、だからといって私は此処にしがみ付いて行こうとも思わない。tbcは、そういう処であり続けて欲しいと思っている。

 誰かが言った。此処は部ではなく部室みたいなものだと。そうなのかもしれない。授業にも出ないでずっと入り浸っている人もあれば、年に数回現れて皆を驚かせる人もある。部員が仲間を連れ込んで麻雀か何かをやっているうちに、仲間のほうが部室に居着いてしまうようなこともあるかもしれない。自由意志でやっているのだから、誰も何も咎めはしない。
 ただ、言えるのはこれだけだ。「来たい人が来る場所」であるという事。書きたい人は此処で好きなだけ書けばいいし、読みたい人は此処で好きなだけ読めばいい。今はまだ「好きなだけ」といえるほど書庫には作品が無いけれど、いつかtbcがそうなる日を見たい。

 私はとりあえず、用もないのに1日1度は部室に立ち寄るような、まあまあ熱心な部員だと思っている。こういうのが、やりたくもないのに部長なんてものをやらされてしまう典型的なキャラだったりするのだけれどね。


 潮 なつみ (連載「DK」執筆者)






東京文芸センター Vol.8


執筆 :岩井市 英知
上松 弘庸
潮 なつみ
神田 良輔
後記 :潮 なつみ
タイトルページデザイン
岩井市 英知
監修 :東京文芸センター