後記

 僕らはそれぞれに課せられた仕事を終えた。共に会うことのない作業だったので、とにかく内々の打ち上げをしようと上野駅前、川のほとりの居酒屋に集まることにした。

「おつかれさまでした、みなさん」僕が口火を切った。それぞれ、てんでに声をあげる。
「どうでしたか?今回の『20人の手』は」僕は言った。
「うん、いい仕事をしたという感じだね」岩井市さんが言った。
「本当にみんなよく仕事してくれたね」上松さんが言った。
「これをきっかけにもっと活発になるといいよね」潮さんが言った。

 僕らはたがいに讃え合った。
 今回のあなたの「手」はとても素晴らしかった。いいえあなたの「手」のほうが、自分はまだまだです。それにしても**さんの「手」はよかったよね。うん、私もそう思う、;;さんのもよかった。ええ、あの人も良かったけど@@さんも……。
 それぞれの「手」のセンスの良さを誉める。切り口の鋭さを誉める。すっきりした切れ味を誉める。一見単純だがその中に込められたテクニックを誉める。

 僕らはそうして会うのは久しぶりで、それぞれ孤独な作業を長時間経て疲れ切っていた。アルコールが体内に入るとだんだん動きは緩慢になっていった。視点が動かなくなり、単調に次々とグラスを口元に運んでいく。久しぶりに人と会っているせいか、みんな口だけは軽々と滑った。

「でもさ、//さんの「手」はなかったよなあ」僕は言った。「あれはひどいね。うん、最低」
「はっはっは。それは言えるね」上松さんは言った。「でも〜〜さんもひどいよ。オレ『東京文芸センター舐めるな』ってキれそうになったよ」
「うん、それは言える」潮さんは言った。「¥¥さんのなんかほんとセンスない。あのやりかたならボクが書いた方がいいもの書けるさ」
「いや、あなたより僕のほうがうまくやる自信あるね」岩井市さんが言った。
「それなら僕ですよ。だいいち今回の作品群見ても、僕のテーマがいちばん現代的じゃないですか」僕は言った。
「そりゃないよ神田くん、もっと勉強した方がいいよ」潮さんは言った。
「人のこと言えるの?」上松さんは言った。
「というか、みんな、もっと映画見て音楽聞いて本読めよ。すげえかっこいいやつをさ」岩井市さんが言った。
「ていうかね、あなたに僕の小説の意図がわかってるんですか?」僕は言った。
「それを言うなら私のレベルまであがってきてよ、みんな」潮さんは言った。
「どいつもこいつも!言っておくけどさ、俺の目から見たらみんな同じだよ、センスないよ」上松さんは言った。
「なんだと!オレのテクニック盗めねえだろ!おまえ!」岩井市さんは言った。
「というか俺がいちばんでしょ?」
「うるせえな内容ねえくせに!」
「しゃらくせえ全共闘崩れ!」
「うるせんだよ元スケーター!スケボー持ってたくせに!」
「オマエは人生経験足りねんだよエヴァンゲリオン!」
「ていうか村上春樹最高!」
「ニルヴァーナ!ニルヴァーナ!」
「つーか彼女欲しいよ!」
「おまえ息くせんだよ!」
……



 そうして僕らは、お互いの友情を深めあい、文芸道を邁進することを誓い合ったのでした。





(この話はフィクションです。
実在の人間とも全く関係ないです。
本当の三人はこんなこと言わないです。)

(協力していただいた方々、
本当にありがとうございました。
すべての人に巨大な感謝を!)

神田良輔







東京文芸センター Vol.13


 執筆
   :岩井市 英知   :上松 弘庸    
   :潮 なつみ    :海坂 他人    
   :おの寺      :神田 良輔    
   :ササキヒロユキ  :佐藤 由香里   
   :高野 恵一    :遠井 未遥    
   :響        :藤原 緑     
   :マサヒロ     :mary       
   :宮本 徳次郎   :山崎 隆     
   :ゆめ          (五十音順) 

 編集:岩井市 英知
      :上松 弘庸 
      :潮 なつみ 
      :神田 良輔 
 後記:神田 良輔 
 タイトルページデザイン
   :岩井市 英知
 監修:東京文芸センター