後記
 
 
 共感、というのが私のキーワードだと思う。

 私は誰かに共感されたいし、誰かの作品を読むときにいつも共感しながら読む。主人公だったり主人公の周りの人だったりペットの犬だったり鳴らない携帯電話だったりとにかく何でもいい。とりあえず共感しながら読む。
 好きな人に振られてストーカーになる話を読めば、そういった経験が無くてもそれに一番近い気持ちで辛かったことや誰かを憎んだりしたことを思い出す。行ったことの無い国を旅する話を読めば、自分が旅をしたらその場所でどんなことを感じるだろうと想像してみる。
 プハーと言いながらビールを飲む話を読んで、父親におくられて来たお歳暮のビールをくすねて部屋に置いてある生ぬるいやつを350にしようか500にしようかと思って500を手にとるけど、思い直して350にする。やっぱり生ぬるくてマズいなと思いながらベッドに腰掛けて汚い部屋を見おろして洗濯とか掃除とかしなきゃな〜と思いながらまた読書の海に沈む。
 ビールを置いたテーブルには手鏡が置いてあって、その上にはお菓子のオマケのアリスのフィギアが乗っている。ビールとアリスのアンバランスな関係。鏡を抜けてもタンスを開けても嵐に吹き飛ばされても、お伽の国など無いけれど。本をあければ何かしら知らないことや忘れていたことを思い出すことができる。知らない自分になれるというよりむしろ、自分の知らないところを教えてもらえるようなかんじでそのインパクトが強烈であればあるほどその作品を好きだと思う。
 ばかげている、と思われてもいい。私は共感されたくて書くし、共感したくて読む。愛している。他人には言ったことのないその言葉を自分に使う。ただそれだけのこと。

------

 美咲です。こちらに入り浸るようになって数ヶ月。時には誰かに感応したり、時には自分のくだらなさに吐き気を覚えてみたり、なんだかんだとこの場所に居ついていました。有名なあの歌のように、チェックアウトできても立ち去ることのできないこの場所に。
 新メンバーも増え、東京文芸センターは常に変動してゆきます。






東京文芸センター Vol.27

執筆 :神田 良輔
佐藤 由香里
永瀬 真史
藤崎 あいる
美咲
後記 :美咲
タイトルページデザイン
岩井市 英知
監修 :東京文芸センター