後記
 
 

 そらを見たことがありますか。

 そらはとてもひろい。
 もう、この前まであった真冬の白さを、
 見つけることは困難になっています。
 これから雨が降る度に少しづつ、
 春に近付いていくのでしょう。

 春が来たら、夏はすぐそこ。

 あの人と二人で過ごした日の空は青かった。
 もっと、鮮やかで、目の覚める色をしていた。

 あの人が好きだった本、
 あの人が好きだった音楽、
 あの人が好きだった人、すべて。

 わたしはそらを通じて思い出してしまう。
 あんなにひろいのに、忘れられません。

 あの人が好きだった本を読み返す。
 春めいた空の下で、読んだ。ゆっくり。
 本と空はあの人を思い出させる。

 あの人とわたしはもうとっくに死んだのに、
 本だけは生きていてくれる。
 空はいつまで生きていてくれるんでしょうね。
 どれだけのものを見ているんでしょうね。

 わたしはこれから、どれだけのものを。



東京文芸センター Vol.41

執筆 :朝倉 海人
雨宮しずく
イシザワマサキ
越前谷 千
藤崎 あいる
後記 :藤崎 あいる
構成 :岩井市 英知
表紙 :佐藤 由香里
監修 :東京文芸センター