後記
 
 

 ほとんど年に2冊も読まない小説だが、
インターネットの普及によって今後この分野は激変するはずだ。
私の小説の中では、玄関に何故か置いてある「理科の授業でめだかを飼育するための空のペットボトル」が出てくるが、実際に若葉台小学校の5年の生徒は、夏頃にめだかの飼育をペットボトルに藻などを入れて飼育し、観察する授業が行われる。
私は横浜の生まれで、相模原で育ったからこの小学校のことなどまったく知らないし、実際にこの学校には小説のネタとして観察しに足を運んでいるが、流石に校舎内まで入ってはいない。
しかし、インターネットで小学校のホームページを見てみると、年間行事から教室の内装まで簡単に調べることが出来る。時計塔があることや、校庭にはふくろうの像、校舎はオーストラリアから輸入したレンガで出来ていて、校内の窓は丸く、授業が終わってもチャイムが鳴らないシステムのことまで知っている。
記録型の小説を書く者は今後インターネットを大いに活用していくことになるだろう。

 また今回の小説は、よく話題になる「二極化」をある程度テーマにした。上流階級とその他大勢という分け方、重田恵は上流階級の切符を手に入れた子供だ。
そういった現代特有の地位にありついた人間の生活様相と、生前、中上健次が言った「現代小説のキー・ポイントは音楽だ」という言葉の方向性とを絡み合わせ、実際の世界には国も言葉も無くすべて幻想であり、それに気付くことが出来る人間は極めて少数であるということを伝えている。



東京文芸センター Vol.42

執筆 :朝倉 海人
磯崎 恵一
佐藤 由香里
藤崎 あいる
後記 :磯崎 恵一
構成 :岩井市 英知
表紙 :佐藤 由香里
監修 :東京文芸センター