はじめに物語 <前置き> 僕は宇宙から来たと思われる生物と暮している。名前はカビタン。よくある居候の手口として語尾に特殊な訛りというか口癖を追加して喋るムカつく軟体生物だった。なにが嫌かと言って彼の場合のそれは「おはようでメンス」とこういった具合なのだった。もはや賭けてもいいけど、それは「おはようでヤンス」を少しヒネった本人はそのつもりなのだからまったくやれない。しかもシモネタ。そして一番カンに触るのはキャラが徹底していないことだ。飽きたのか知らないが、普通に「オイ、岩井市」とタメ口をきかれる。とてもムカつく。 「よう、岩井市。お前、ユンソナ好き?」 「ちょう好き」 「実はさぁ…オレの妹が彼氏と別れたばっかりでさぁ、さみしいらしんだよ。そんであいつはお前みたいな微妙な顔が好きらしいんで」 「絶対ウソだね!」 「何が」 「絶対お前の妹ユンソナじゃないね、つうか!ユンソナなわけねぇし!ユンソナ軟体動物じゃないし、来たのは韓国からであって宇宙からじゃありません!ふざけんな!ふざけんな!マジでピンク色!」 「待て、待て。そんなに早とちりすんなよ。激昂仮面だなぁ。妹は兄のオレが言うのも何だけどけっこうカワイイよ。どっちかっつうとギャル系だけど色白だしさ、割と乳もこう…」 「ギャル系とかあんの?…つうか。お前らのカワイイはどこを見るの?基準はなに?乳?乳ってどこ?色白…つうかピンクじゃん、お前ら」 「ホラ、そこは異文化だしボチボチ馴れるしかないんだろうけど。あ、そうだ。お前の女友達に似てる感じ、あんぐらいのレベル」 「ひょっとして、ブリトニー?」 「そうそう。あの子いいよ、あの子好きだな。チチがモリッとしててケツはブリッとしてて、触手がニュルッと」 「ねぇし!触手ねぇし!」 「ともかく、紹介してくれたらオレの妹も紹介してやるよ」 「あえて分ってて訊くけど、ブリトニーと同じぐらいカワイイの?」 「カワイイね」 「つうか、外見はともかく性格はどうなの?お前みたいな感じ?俺さ、お前の家族とか知らないし。妹はどんな子?」 「性格は…獰猛」 「え?え?待って、『明るい』とかじゃねぇの?『獰猛』って肉食獣とかに使うんじゃないの?」 「肉食ってんじゃん。オレも。むさぼり食ってんじゃんか、地球の肉を…ゲフフ」 「まぁ、こないだみたいに焼肉行って食べ放題のように食われても困るんですが。母ちゃん泣いてたよ。『ママ上』とか呼ばれても、母ちゃん苦笑いしてたし」 「やっぱ居候としては特技のひとつでも見せたほうがいいかね?」 「うん、まぁ。あるの?特技」 「馬鹿にすんなよ、仮にも宇宙から来てんだぜ」 「言っとくけど、ただ丸まってザブトンに化けるとか口を開いて長靴とか、そういうのは認めないから。お前の場合、タコとかそういうのは化けたうちに入らないから」 「いや、つうか、化けない」 「じゃぁ、忍術?それともメカ?念力?」 「ほんと、お前は幼少時の空想化学で止まってるよなぁ…。問題はその発想の貧困さなんだよ、岩井市」 「スマンね、貧困で」 「そもそも、オレは何しにここに来たと思う?」 「さぁ?どうせアレだろ?宇宙船がポシャって不時着とか、そういうの」 「岩井市、”クラムボン”知ってる?有名だろ?」 「あれだろ?『クラムボンがカプカプ笑ったよ…』とかいうやつ」 「あれ、オレの部下」 「うそ、マジで?」 「マジ」 「同じ生き物?」 「同じ生き物で同じ職業で、長女の婿」 「長女の婿?つうか、お前。子持ち?」 「あ、言ってなかった?オレな、お前らに換算するとだいたい厳格な父って感じだぜ」 「そうなんだ…。で、そのクラムボンが?」 カプ…カプ…カプ…カプカプ…カプカプカプカプカプカプカプカプカプカプッ。 「うわ!怖っ!何?どうしたの?ねぇ、軟体どうしたの?」 カビタンが笑ったよ、カビタンが笑ったよ…。 カビタンが笑ったよ…というか、カビタンが怒ったよ! あからさまに怒ったよ! カプカプカプカプカプカプカプカプカプカプッ。 「オイ、カビタン!なに、いったいどうしたんだよ!おいってば、おい、ピンク!軟体!げぇっ、なんか生えてきた!」 「うわぁぁぁ、なんか怖ぇ。なに、どうしたの。うわぁ、色変わってるし!」 もう、お前ら、全然ダメ! 「うわぁぁぁぁぁっ…」 というわけで僕らは数年後の今は前衛的な同人誌とかやってメンスよ。 (『文学を殺す』はじまるよ!)
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