カラーズ8




潮なつみ






   八、ヒサノ

 まずはお祝いの言葉を言わせてね。
 ミカ、本当に結婚おめでとう。
 そしてほかのみんなも、元気にしているようで、何よりです。
 多分みんなも集まっているはずのこの佳き日に、駆けつけることが出来ない事が、とても残念で堪りません。だけど、ロンドンから帰国できない私に、わざわざみんなが揃って書いてくれた手紙を読んで、とても懐かしく、あたたかい気持ちになりました。大学卒業と同時に私がイギリスに飛んだのが、もう二年半も前のことなのだから、高校を卒業してから数えると、もう六年も経ったことになるんですね。それだけの歳月が経っているというのに、まだみんながあのころの思い出を大切にとっおいてくれていることが、この手紙を読んで、とてもよく伝わってきました。
 ホームシックにはかかったことの無い私も、今回ばかりはさすがに日本が恋しくなってしまいました。

 それにしても、ミカが結婚するというニュースには、正直かなり驚きました。だって、確かミカは「私は男なんかに頼らないで、自分の力で生きて行くの」なんて、カッコつけていたから。
 「そういうことを言ってる奴に限って、一番早くに結婚するんだ」と言っていたリョウジくんのほうが正しかったわけね。
 だけど、きっとミカのことだから、結婚しても自分のしたいことを続けていけると信じています。まだアーティストとしての知名度は高くないみたいだけど(笑)、どうやら色々とがんばっているらしいじゃないの。ミカのバイタリティーをもってすれば、結婚生活も仕事もめいっぱい欲張ってがんばれると信じています。本当に、お幸せに。

 逆に、昔は「何が何でもはやくいい人を見つけて結婚したい」なんて口癖のように言っていたアユミが、今、仕事に命を懸けているとかで、それもびっくりです。なんだかんだ言っても根が真面目なアユミは、初志貫徹できてないよ、なんて手紙に書いていたけれど、私はそれで良いんだと思います。きっと、高校を卒業してからの六年間、大学や他のところでいろんな人と出会って、いろんな経験をして、たくさん考えて、自分を見つめてきた結論がそれなのだから。
 仕事の方面での成功ももちろん、初志のほうだって、まだ遅いわけじゃないのだから、これから一挙に手中に収めてくれることをお祈りします。がんばってね。

 ユミコはまだ学生をやっていると言うことで、それもまたびっくりです。大学にも行きたくないと言って、勉強をしているところなんて見せたことがなかったユミコが、一年浪人して大学に入ったというだけでもびっくりしたのに(笑)。在学中に一年休学して、アメリカを一人で旅していたというのは、ユミコらしいエピソードではあったけれど、さらに大学院まで行って今も学生でいるというのは、やっぱり意外です。
 ユミコはどんなことに対しても、おもしろいと思わないと手を出さないし、始めたらとことん最後まで極めなきゃ気が済まない質だったから、きっと大学の研究がよほどおもしろかったのでしょう。そう言う意味では、ユミコもいつまでも変わらないのだなあと思って、安心します。

 リョウジくんは、大学を卒業して二年目にして、司法試験に合格したとか。これも、おめでたいニュースでした。本当におめでとう。やるときはやる、男らしいリョウジくんなので、いつかはちゃんと受かると思っていたけれど、気まぐれな性格だから、実はみんな心配していたのよ。どちらにしても、受かってからのほうがリョウジくんの力の見せ場だと思うので、これからもその男気でがんばってください。

 コウイチくんのほうは、イベント会社に入って相変わらずミーハーなことをやっているそうで。ゆくゆくは、独立するつもりだなんて言っている辺りも、全然変わらないなあと思います。ひょっとして、未だに「女の子にもてたい」とか、富と名声のためだけにやっているのかしら、なんて思ってしまいました。まあ、それでも人生が成功すればそれでいいよね。コウイチは、とにかく焦らず着実にがんばってほしい人です。応援してます。

 それから、マモルくん。両親の反対を押し切って、とうとう演劇の世界で生きていくことを決意したそうですね。どんなに下積みを重ねても、芽が出るかわからないような世界に、敢えて潜り込んだあなたを、素直にすごいと思います。大学名を言えばまだまだエリートで通用する時代なのに、それを武器にしないと言うこと、とても良いと思います。いつか、みんなで舞台を観に行きたいな。機転の利くマモルくんのアドリブに期待します。もちろん台詞はちゃんと覚えなきゃだめだけどね。

 時々手紙を書いてくれるヤスオは、普通に大学を卒業して、普通に就職して、普通に働いているのを、どうやら一人でみんなと比べては、少し引け目に感じているところがある気がします。だけど、確かあなたは昔から、ごく普通の幸せな家庭を持ちたいという夢を持っていたのだから、何だかんだ言いながらもちゃんと昔からの夢にまっすぐ突き進んでいるのでしょう(あとは、良いお嫁さんが来るのを待つだけ…でも、それが一番難しいかな?)。私たち女の子の中では、ヤスオは「良いお父さんになりそうな人ナンバーワン」だったのよ。変わらずにいてくれることが、とても嬉しいです。今だから言っちゃうけれど、高校時代、私はヤスオに恋していたのだから。

 さて、私のほうの近況報告も一応しておきますね。私は毎日楽しくやってます。大学在学中からバイトでお金を貯めてきて、ようやく夢にまで見たロンドンに来たときは、正直な話、不安と後悔で一杯でした。両親も大反対だったし、知っている人が誰もいない場所での新しい生活なんて、今までしたことがなかったから。言葉の壁は、大学四年間で極めただけに苦労はしなかったけれど、文化の違いって、あると思ったし。
 だけど、ロンドンは本当に良い所です。日本は何でもかんでもとにかく回転の速い国だけど、こちらはみんながとてもマイペースで、いろんなことをゆっくりと築き上げていくというスタイルが主流です。それぞれが独自の価値観を持っていて、それが当たり前のことだから、人の価値観に対しても干渉しない。でも、決して拒絶しないのです。だから、ここは人種のるつぼです。日本や他の国から来ている人もたくさんいる。古い町並みをしていたりもするけれど、異文化がそれぞれぶつかり合っているものすごいエネルギーを感じる、そんな、エキサイティングなところです。この街は、私にはとても合っているみたいです。
 そんな中で、私は日本人もたくさんいるこの街の小さな博物館の、日本人向けのセミナーの通訳などの仕事をして、なんとか生計を立てています。いつまでここにいるのか、わかりません。ひょっとしたら、一生こっちにいるかもしれません。
 でも、もしまたみんなが集まるような機会があるのならば、今度こそ、ぜひ会いに行きたいです。声を掛けてください。そして、この素敵な街に、いつかみんなも来てほしいと思っています。私のアパートメントに泊まっていってくれれば、宿代は無料で日本語のガイドまで付いちゃうんだから、海外旅行の際には、ぜひ考慮に入れてね。

 さて、思いのほか長くなってしまいました。みんなに話したいことはまだまだ沢山ありすぎて、これでもほんの何パーセントかしか書けていないのだけれど、それは今度会える日のためにとっておくことにするね。
 それでは、ミカ、本当に結婚おめでとう。ミカもみんなも(もちろん私も!)、もっともっと自分が信じた未来を真っ直ぐ進んで、もっともっともっと幸せになれることを願って。

 小林 久乃