くじら遊び

<後編>

神田 良輔







    そのことについて、喋ろう。
 今までの話はその前座みたいなものだ。俺の言い訳だ。俺は「こんなにまともなんだ」っていう、ね。
 そして、セックス・アフェアについて、俺がどれだけ涙ぐましい――本当に涙がでるようだろ?――努力をしてきたか、わかってもらえないと俺のうけた衝撃、傷は俺のどこまで深いのか、ということを理解してもらえないと思う。

 事態は唐突だった。
 ある一日をきっかけに、俺のなかでいろんなものが行き来した。変わった。
 どういう変わりかたをしたのか、俺は未だにはっきりとはわからない。それがわかっていればおまえにこんな手紙を書く必要はないんだ。
 俺はおまえを前みたいに抱きしめることがだろうか?おまえの口紅のついた唇を舌で撫でることができるだろか?しがみつくみたいに横になることができるだろうか?――そういうことが出来た自分を思い返してみたよ、それが今の俺とどれだけ違うのか、考えながらね。
 結局わかったことは、ひとつだけだった。
 今の俺はおまえの姿を想像することさえできなくなってたんだよ。


 ――俺は今、学習塾で働いてる。昼過ぎに出勤して帰りは深夜になることが多い――おまえの知ってるとおりだ。それが週に五日以上もあるわけで、おれの生活は、まあとにかくこの学習塾で、同僚とか生徒たちを相手にしていかなきゃいけない。
 まあ、うまくやっていけてると思うし、特に不満はない。同僚とも、生徒とも、いい関係ができてると思う。
 同僚の中には生徒と仲良くなる例もある。もっと厭な言い方をすれば、教え子と出来る、ってことだな。
 俺はこれは変質的なことだと思っている。まともじゃない、と。それは血なまぐさい行為だ。人肉を喰うみたいなものだ。

 なにしろ、相手は中学生なんだ。思い出してくれ、自分が中学生の頃を。そして、今の自分を思い返してくれ。どっちが力がある?社会的にも、人間的にも、人格的にも。
 ――
 同窓会とかで会う懐かしい顔ぶれとかあるだろう。その連中は、たいていにおいて、かっこよく、美しくなっていると思わないか?
 それは単純に言えば、成長したからだ。いろいろな経験を踏み、よけいなものをそぎ落としてきたからだ。デブだった奴は痩せる方がいいと思う、そして、痩せようか、と思う。そう思ってれば、たいてい痩せる。そして痩せる前より、美しさは増す。人間てのは、まあたいていの場合、そうやって成長していくんだ。どんなに愚かしい人間だって、善し悪しは分からないはずはない。努力がいやだとかなんだとか言ってても、24時間掛けることの365日付き合ってれば変わらざるをえないだろう?
 そしてまあ、俺たちの年齢くらいまでは成長だけしてる、と言える。いくらハリがなくなったとか、接待で太った、とか言っても。失ったものなんか得るものの大きさに比べればなんでもない。肌のハリは失ってもエルメスを持つことができるようになる。太っても、会話のしかたとか自信とかは身に付く。そうやって俺たちは成長してきたんだ。
 中学校の頃の自分を思い返すと――下手なことは喋るし、ルールはなにも知らないし、振る舞いもまともじゃない。少なくとも俺は、それが自分だというのをFめたくないね。

 中学生たちが俺たちを見る目というのはどういうものか、想像つくだろうか?
 多くは「別種類」と見ることが多い。つまりまったく別のことだから、関わらないようにしよう、という態度だ。ファミレスで隣あわせた外国人がスペイン語で喋りあってるみたいなものだ――多少の好奇心とかはあるかもしれないが、深くは関わりあうことを望まない。なぜならそれは不可能だとわかっているから。
 俺たちの場合のように力関係がはっきりしているところだともっと顕著にそれはわかる。相手にしてもらえるなんてことは、わずかにも考えないものだ、普通は。
 ただ一部の生徒にはそうでもない生徒もいる。こちらの世界に加わって、自分も高められたい、という生徒だ。そういう生徒にこちらから誘いをかければ、たいてい話は早いんだ――ある同僚は3人の中学生と寝た。虫酸が走る話だが。
 いくら俺たち教師が生徒をこちらに引き込もうとしても――それはいけないことだ、と俺は思う。いくら彼ら/彼女らがこちらに興味を持っても。
 順番に学ぶことは大事なことなんだ。彼/彼女らがいかに欠陥を抱えている、どうにかしてもらいたいことを抱えていたとしても、やはり俺たちは与えるものは与え、そうでないものはしっかり抑制しなければならない。与えすぎるのは、間違ってる。
 なぜなら、それはあまりにバランスが悪いからだ。安定、長続きするわけでもなく、遊技というにはあまりにインパクトが大きすぎる。古い考えと呼ばれようが、間違っていないはずだ。
 中学生と寝た同僚は言ったことがある。中学生の両親が不和で、ろくな家庭も頼りになる友人もいない相手だった、と言った。「だから俺にできることがあった」
 俺はキれた。だったらセックスなんてするな、てね。あれは、フェアな世界なんだ。お互いが持ち寄り、それを分け合うものだ。「だからオマエは間違ってる」と俺は言った。「お前がなにかを受け取ることがあった、そして彼女がなにかを受け取った、としても、それは歪んだものになる、間違いない。お前らはお互いに、ロクな目にあわないぜ」
 どうだ?俺は間違ってないと思う。

 俺たちくらいの年齢が、中学生くらいの年齢になにを見るか。
 それはまあ、一口じゃ言えないかもしれない。でも、それらにまとめてラベルをつけるとしたら、未成熟さ、といってもいいと思う。
 そしてそんな、ただお粗末でみすぼらしいものに偏執する奴もいるようだ。どうやら。もうそれはただの変質者だ。まともさに耐えられない種類の人間のすることだ。軽蔑するべきだ、と俺は思う。


――
 ――
 ふう。
 そして、その軽蔑と「歪み」が俺だ。忌むべき過ちとおぼれる快楽を持つものが俺だ。
 俺はこれらの行為をすべて引き受けた。俺は、ある中学生、しかも男子中学生と、寝た。


 言っておくが、俺はゲイの要素をもってる、と思って欲しくはない。
 俺はゲイじゃない、というのはこの話の前提だ。俺は男に対して性欲を感じたことはない。今までだって、一度も。男相手と抱き合ったり求め合ったりする、どんな種類の幻想にだってとらわれた事は無い。
 その相手が特別だった、と俺は言いたい。その生徒は14歳という年齢だ。その年齢と性別というものがどういう関係を持ってるとか、俺にははっきりわからない――まあそれを言ったら、俺は性別をはっきり持たない相手を求めた、ということになり、また別の問題として考えないといけないとは思うのだけどね。
 ともかく――俺はその生徒を求めた。性的に感じた。確かに起こったことだ。
 そして、これがいちばんの問題なんだが、俺は――今振り返っても、まだその欲望は正しかったような気がするんだ。
 つまり、俺はまだその生徒を抱きたいと思っている。もう一度、まだ欲望は静まっていない。酒に酔った こととかじゃもちろんなくて、「なかったこと」として済ます事が出来ないんだ。


 その生徒は、普通の少年だ、と言っていいと思う。中学2年生の、あまり個性的と言えるか、わからない。
 背は少し普通の人より小さい。成績は良い方だ。やややせ方で、発育はいいとは言えない(ああ、俺は良く知ってる)。
 ただ、表情は他の生徒たちと違ったところがある、と俺は思っている。
 なんというか、ものすごく冷静なように思える。冗談も言うことがあるし、頼りなく笑う姿も見た事がある。でも、そういう姿は、彼の本当の姿じゃない。
 どういえばいいのか。さっきから考えているんだがね。
 中学生というのは、考えてることがすぐにわかるだろう?女の子と話をすれば女の子のことを考えてる様子がよくわかるし、数学を解く時には、それこそ真剣になって問題を解く。すごくわかりやすいんだ。かつての俺を思い返してもそうだったし、女の生徒だって同じだ。差がない。自分の目の前にあることしか見えないんだ
 俺は彼をいまだに計りかねてるんだ。わりに俺達は――例の一日を抜かしても、良く喋った。いろんなことも喋った――うん、いろんなことを喋りすぎた、とも言える。成績の話から、学校の話、友達の話、マンガの話とか戦争についてとか、ふざけたことからちょっと堅苦しいことまで、いろいろ喋った。それでも、彼のことはいまだによくわからない、という言い方をするのが正しいような気がする。
 お前のことはわかってる。だいたいなんでも知ってる。
 俺はしっかり彼を射精させたりもしたんだがね。
 でも、彼のことはわからないんだ。14歳の少年を、把握できないんだよ。


 その一日について話すよ。
 ――その日のことを、話したくてたまらない自分がいることも、告白しなければならないだろう。あの日のことを思い出すのは、楽しい。どういう種類の楽しさか、おまえに判断してもらうしかないんだが。

 冬季講習の講義は特に問題なく終わった。
 その日、俺は特に用事もなかった。師走でクリスマスも近かったが、俺は季節で動く生活をしていないんでね。年末年始もたいして構えたりすることはなかった。ただ生徒たちが冬休みに入って、講義の名前が冬季講習に変わり、昼間から授業が始まるようになっただけだ。その日は冬季講習の初日で、夕方前には講義も終わってしまった。
 俺は教室に残って、残った生徒たちの質問を受けたり、まあたわいも無い話をしたりもしていた。生徒たちと話をするのは、結構楽しいものもあるんだよ。そんな中で、生徒は一人減り、二人減り、という感じになっていた。気づけば教室の中は、俺と――その生徒の二人きりになっていた。自分の席に座りながら、テキストを開いて問題を解いていた。
 俺は彼に近寄った。「まだ帰らないのか?」ってね。

 彼は時折集中して勉強する様子があった。テストの点が悪かったとか、解けない問題があった、とか、そういう時にね。そういう生徒はこっちにとってもありがたいし、理想的な生徒だとも言える。おそらくそんなところだろう、と思ったんだ。
 彼は顔をあげてペンを止めた。「英語の、あるレベル以上の長文問題が解けない」ということだった。
「まあ英語は慣れるしかないんだよ。日本語で書かれた文章をすらすら読めるのは、慣れてるからで、英語にも慣れれば長い文の文意もつかめるようになるし、ペースみたいなものもつかめる。少し時間をかけるしかないな」
 と俺は講師らしく言った。彼は釈然としない感じだった。
 少しつきあってもらえますか、と彼は俺に言った。できれば少しきっちりと読んでみたい、教わることも多いと思うので、ということだ。「ここの教室は次の授業で使うからな」と俺は答えた。彼は少し考えて、どこか他の場所へ、僕の家でもかまわない、と言った。

 彼はおそらく、純粋に問題が解きたいとか勉強したいとか、そういうことだったと思う。俺とセックスしたい、とかは全然考えていなかった。そういうのはわかるもんだ。無論俺だってそういう気分はまるでない。やる気を生徒が見せてくれるのはうれしい、ということくらいだ。だから俺は少し考えて、ファミレスでも行くか?って言った。
 俺たちはそろって外に出て、俺の車に乗った。車に乗るとまあ普通のことを喋った。冬休みのこととか年末年始のこととかね。

 いちいちその喋りとかも思い出してみるんだが――彼と喋ってても不自然なところがまるでないとしか思い出せない。性的な感じもないし、妙に白々しいとかいうこともない。
 でも考えてみれば、そういう自然さは異常なんだ。14歳と28歳が一緒に車に乗っていて、不自然さがないわけないんだ。他の生徒と二人だけになったとき、そういうふうな円滑さとか、俺が退屈するとか、そういうのがまったく無いことはなかった。
 なんというか、しっかり話をすることができるんだよ、彼は。そこから先はわからない、とか、それはこういう感じでおもしろい、ってね。

 ファミレスに俺たちは並んで入った。4人がけのテーブルに参考書とノートを出して、英語の個人授業の開始だ。
 勉強のコツを良く知っている生徒だ、と俺は感心した。彼は俺よりも良く喋るんだが、その言葉を聞いていれば、彼がどう理解してるかとか、なにをわかっていないとかをわかってるのが明白なんだ。俺が中学の頃よりも上だな、と思ったし、彼にそういうことも喋った。俺は子供の頃IQテストで県下最高をとったことがあり、そういう意味では並の中学生の頭の悪さには辟易することも多かったんだが、彼はそんな俺よりも上だ、と思った。彼に必要なのは、後は単純な知識の積み重ねだけだ、と思った。
 そういう生徒を教えるのは、すごく楽しいんだよ。俺たちはアイス・コーヒーを飲みながら、2時間ほど英語を続けた。俺も彼も集中した、良い授業だったと思う。
 一息ついたときには、もうそのテキストから学ぶ事は、彼にはもうなかった。
「じゃ出ようか」と俺は言った。
 はい。と彼は言った。俺たちは並んで車に戻った。
 そのとき、一瞬俺たちの手が触れた瞬間があった。彼はぴくんと反応して、手をひっこめたんだ。
 それを俺はほほえましく感じたよ。いかにも中学生らしい反応だな、と思ってね。
 そしてその瞬間が俺の欲望のはじまりだったな、と今から考えれば思う。今から考えれば、だけど。

 ものを教える、というのはひどくエロティックな行為だ、と思う。
 どこかの哲学者が言ってたが、教える-学ぶという行為はとても不自然なものだ、ということだ。辞書とかなにもなかった時代、外国語を勉強することは今ほど簡単じゃなくて、その国に行き、実際に話をして覚えていかなければならなかった時代を想像するとよくわかる。そこではコードの移管があるんだ。例えばフランス人からおまえがフランス語を学ぶとしたら、、お前は完全にフランス語のコードを知らなければならない。私、とお前が考える時、フランス語は、je、と考える事を強要する。お前はそれに従わなければならない。従わないと、お前はそのフランス人になにも言い返す事ができないんだ。フランス語と日本語で、お互いの理解なしに話しつづけることは原理的に不可能だ。お前がフランス語を習う時には、それこそ身体全体を相手にゆだねないといけないんだ。指先から頭のてっぺんまで、相手の指図に従わなければならない。
 そしてお前が逆にフランス人に日本語を教えるとしよう。お前は、相手が日本語を学んでくれると思わなければ日本語で話しかけることができない。相手が日本語を聞こうとしてくれる、ということがわかってないと、お前はjeは私、と教えることができないだろう?そして相手がワ・タ・シ、と片言で喋ってくれる、ということを信頼していないと、お前は日本語を教えることができないんだ。例え表向きにでも100%信頼しないと、相手に日本語を教えることはできないんだ。
 それはどうみても、二人だけのための行為だ。3人目のフィリピン人がそこにいた場合、お前はフランス人にもフィリピン人にも喋りかけることはできない。想像してみればすぐにわかる。お前は間違い無く、黙り込むだろう。
 そして、セックスも、相手を感じさせようと思わなければ、それはセックスとは言えない。わかるだろう?

 
 俺たちはまた喋りながら車を走らせた。
 俺はいつのまにか、リラックスしてしまったのかもしれない。しばらく走ってから俺は女のことを喋りたくなった。
「俺が中学の頃にはね」俺は言った。「クリスマスには彼女と二人で千葉まで行ったよ。海見に行こうって、バカげてるけどな」
 へえ、と彼は言った。僕は彼女がいない、千葉まで行ってなにしたんですか?っていうようなことを彼は言った。
「ヘンにロマンチックだったからね、俺も相手も。冬の海を、数千円かけて見に行くっていうのはなんだかとても楽しいことのように思えたんだ。ただ東京をまたいで千葉まで行くだろう?俺は途中で千葉まで行くのがバカバカしくなってね、新宿とか渋谷とかに行って買い物したりしたくなったんだ。そう言ったんだけど相手は海に行く気になっててね。ちょっと言い合った。結局言った事は守ってよ、って一言で俺が負けて、千葉まで行った。でも最後まで不機嫌でね、俺。結局たいしたこともないのはわかってるだろう?誰もいない、寂れた海を見て、ぼおっとしてたよ」
 俺は車を止めた。彼の家近くに着いたんだ。
 彼はなかなか車を降りようとはしなかった。もうちょっと話をしてる気になったんだろう、と俺は判断し た。俺も彼と喋ってるのは楽しかったし、このまま帰るのも寂しい、と俺も思っていた。
 ふうん。と彼は言った。でも楽しそうだなあ、ちょっとした旅行ですよね。日帰りは辛そうだけど。
「いや、結局一泊したんだ。初の無断外泊だった」と俺は言った。
 僕は彼女がいないから、と彼は言った。よくわからないな。上手く泊まれたんですか?
「海岸近くのラブホテルに行ったよ。そっちのほうが良く覚えてるな、確かに。はじめて入ったから」
 すごいですね、と彼は言った。僕にはそういうことはまだまだ先だと思う。
「そうでもない。あっさりしてるもんだよ。キミみたいな理解力があれば、こんなことは簡単だよ」
 理解力?
「そう。一回物事を覚えてしまえば次からは絶対に間違えない理解力だ。2度目、3度目をこなす時には、もう大して労力をかけずに済ます事が出来るさ。たいした問題でもないんだ」
 ふうん。と彼は言った。僕なら簡単だ、って聞くと、そうかなって思っちゃいますね。
 俺はふと彼に触ってみよう、と思った。一瞬彼と手が触れた時のことを思い出したんだ。どちらかというとイタズラする、という感じだ。
 俺は彼の腕に手を置いた。一瞬ぴくっと、また同じように彼は反応した。俺は一瞬、心の中で笑った。
 次の瞬間、彼は俺の手を取り、手を握った。
 俺にはその行動は予想外だった。彼の顔を見た。俺を見て笑っていた。
 その顔を見たら、俺はほとんど条件反射みたいに彼の下半身に手を伸ばしたよ。彼の性器は硬くなってた。まだまだ発育途中だったが、それはまちがいなく欲望のかけらだった。
 この時、俺の欲望はそれに素直に呼応した。彼の下半身にものすごく興味を持った。俺は彼の顔を見た。彼は、陶酔を知りたがっているように思った。俺は彼のガクランのベルトをはずして、未成熟な、硬くなった性器をとりだした。
 俺のなかでスイッチが入ったんだ。俺は彼を俺の席に寄せた。顔を寄せ、抱きしめた。彼は抱き返した。 その反応は俺をものすごく興奮させた。欲望はもう止まらなかった。




 ――
 さて。
 これが話のすべてだ。長い話だったが、小説よりは短いだろうと思う。しっかり読んでくれただろうか?俺の文には不備がなかっただろうか?不安でたまらない。

 書いてみてわかったことが一つある。これは単純な問題なんだ。ありふれた問題にすぎる。モラル/インモラルの話にすぎない。どこにだって転がってる話だ。
 しかしありふれてるからこそ、かもしれないが、俺は不安で仕方がない。お前に話すことも怖い。お前はしっかり判断して、俺の処置を決めるだろうから。

 俺は言い訳をするつもりもないし、どうこう付け足そうとも思わない。ただ、ありのままに話をしようと勤めた。俺の話を理解してもらうことだけを考えた。元来そういう人間なんだ、俺は。お前にどうこうしてほしい、というんじゃなくて、ただ話を聞いて、その感想を言ってほしいんだ。

 俺は今度こそ本当にお前に捨てられるのかもしれない。そうなる俺は簡単に想像できる。
 これは、許しちゃいけない種類の物事だ、ということだ、と判断するかもしれない。
 でもそれを置いても、俺はお前にすがりたいんだ。まっとうなお前に――お前のまっとうさは美しいよ――照らし合わせてみたいんだ。
 返事を待つよ。じゃあ。