届かない耳、発さない口




藤崎あいる













7/1 - 7/31








2002/07/01(月) いつの間にか
7月になってしまった。
なぜかとてもあせっている自分に気付く。
あたしは、何にあせっているんだろ。





2002/07/02(火) 「あなたは間違った事ばかりしているわ」
生活指導の先生に、間違った事ばかりしていると言われた。よかった、あたしはみんなの目から、『間違っている』とうつっているんだと思った。あたしがニコニコとしていたら、生活指導はワナワナと震えてあたしに何か暴言をはいたけれども、あたしは聞いていなかった。間違えよう!と言って間違えているんだから、こんなに嬉しい事はない。
「で、あんたは自分の人生、違えてないのか」
っていうか、あんたの赤すぎる口紅といい、白すぎるパウダーといい、間違っちゃってるよって思う。

あたしはそれから学校の屋上の柵をこえて、自殺ごっこをした。靴をぬいで、そこに立った。思った以上に気持ちのいい場所だった。あたしだったら笑って死ねる。だけどあたしはまだ死なない。あたしは柵を越え、戻った。それからそこでお弁当(コンビニで買った、冷たいおにぎりとジュース)を食べた。

空に包まれて、死にたい。あたしみたいなバカな人間でも、そうしたら天国にいける気がする。こんなあたしでも、天国に憧れる。





2002/07/03(水) 赤い空
あたしが見ているのは赤い空。モリチカが買ってきてくれた、ダイエットコーラを飲みながら、この気持ちいい場所(学校の屋上)でぼんやりしている。

「ねえ、今日はココで泊まろうか」

と言ったら、モリチカはうなずいた。

「きっとたくさん星が見られる」

あたしたちはそれからコンビニで夕食を買って学校に戻り、体操服を持ってきてそれを着て、夕食を食べた後屋上に体操マットをひいて、横になった。粉くさかった。けれど、モリチカが言った通り、星がとても綺麗に見えた。あたしはなぜかとても興奮してしまって、眠れなかった。だけどいつか眠っていて、起きたら隣にモリチカが寝息をたてて居て、あたしたちってせずに終わった夜って初めてだ、と思った。お金にならないなら、あんたなんていらない、とは思わないのがモリチカだ。


家には、ここのところずっと帰っていない。





2002/07/03(水) 感情がない空
夜中、家に帰った。お母さんはいなかった。
あたしはキャミソールにホットパンツの姿になって、
自分のベッドで寝ていた。

ドアがひらき、しまる音がした。
持田(お母さんの恋人)があたしの部屋に入ってきて、
あたしの服を破るように乱暴に脱がし、
あたしの性器を撫で、身体中を噛み、あたしを犯した。
あたしは精一杯抵抗して、蹴りもいれたけど、
男の力にはまったくかなわなかった。

持田は終わったらあたしをそのまま置いて行き、
この家から出て行った。
あたしは黙って少し泣いた。

女であることのあきらめ。
あたしはなんだか、どうでもよくなった。





2002/07/04(木) 感情がない空
あたしは家に帰る事をやめた。日記帳は、とりあえず持って行くことにした。荷物をまとめ、あたしは家を出た。
荷物って言っても、日記帳と財布と化粧品、あと保険証と写真(バカみたいだけど、家族の写真)。どうでもいい。どうでもいい。あたしは、女であることを最大限に活用し、男達から金を貪りとってやる。





2002/07/05(金) 感情がない空
街に出て、声をかけられるのを待った。化粧をなるべくこくして、いかにもやってそうなコを演出した。会社帰りのサラリーマン風の男が声をかけてきて、ふたつ返事でOKし、ホテルに行った。いくらくれるの、と聞いたら、「4万でいい?」だって。いつか昔、ネットアイドルが悪戯で『あたしを買って下さい』というタイトルでオークションにだされたことがあったのを思いだした。そのネットアイドルは、1000万以上の値がついたと言う。それにくらべて、あたしは4万か。別に。どうでもいいけど。

変に暗く、派手な色が嫌だった。あたしは4万、財布に入れた。





2002/07/06(土) 気付いた事
今日も、ひっかけた客と泊まったホテルで朝をむかえた。あたしはすごいコトに気付いたしまった。ひとりで過ごす夜もないし、寒い場所で眠ることもない。あたしは、女でよかった。あたしは、女でよかったのだ。





2002/07/07(日) 携帯電話
モリチカから電話があった。学校に来てないけど、お前生きてるのか。モリチカは相変わらず無表情な口調で、あたしにそう言った。どうしてあたしのことを、いちいちあんたに報告しなくちゃいけないの。あたしはそう思った。だけどあたしは、それは口に出してはいけない、とつぐんだ。モリチカはあたしの飼い主だ。そういう契約を結んでいるんだから。

「家出して、いつも街をうろついてる」

あたしがそうやってモリチカに言ったら、

「生きているんならいい」

と返事されて、きられた。あいつは何を考えているんだろう。さっぱり、わからない。

今日は、七夕だ。織姫とひこ星は、出会えたのか。
あたしは未だ、誰からもコエがかからない。





2002/07/08(月) 生きなくちゃいけない。
生きなくちゃいけないって、強く思った。昨日、公園のベンチで夜を明かした時に。

誰彼構わずコエをかけて、寝て、お金をもらって、を狂ったようにくり返した。狂ったように、じゃなくてあたしはきっと狂っている。今日だけで、16万稼いだ。ベッドになげられたお札を、抱き締めた。稼いだお金は、郵便貯金に明日貯金する事にする。ためたお金で、アパートをかりて、あたしはソコに住もうと思う。あたしは生きる。





2002/07/09(火) 上を向いたら、雨が降ってきた。
今日も沢山の男と寝た。今日稼いだお金は、12万。昨日よりも少ない。あたしは舌打ちをして、ウェンディーズでハンバーガーを買って食べた。アダルトビデオのスカウトがあって、あたしってそれっぽいのかなぁと考えて、なんだかおかしくて笑った(勿論、それは断った)。それから、公園のトイレでメイクをなおした。メイベリンのフルアンドソフトを何回も重ね付けして、ブルジョワのオレンジ色のチークをぬった。化粧って、気持ち悪いなぁ。あんなに顔色の悪い顔が、ここまでいい色になるんだもの。ぼんやり考えて、バカみたい、と自分に言って、あたしはそこからでた。

今日と昨日のお金をまとめて貯金した。郵便貯金はせずに、銀行へ。保険証をもっていてよかったと思った。





2002/07/10(水) 上を向いたら、雨が降ってきた。
ファストフードばかり食べていてはいけない、と思いスーパーマーケットで野菜サラダを買った。それからナンパについていった。お茶だけおごってもらった。男がトイレに行っているスキに、財布からお金を抜き取ってバックレた。乱れた食生活は肌に影響する。それでもあたしはファンデーションでかくそうとするから、きっとあたしの肌は20代後半にはボロボロになるんだと思う。





2002/07/11(木) 下を向いたら、地面が濡れていた。 あ、あの男の子だ、とあたしは一生懸命追い掛けた。いつかの、ネコを抱き締めた男の子。だけど追いつけなかった。青いだけの空は嫌いだ。雲がないと。





2002/07/12(金) 携帯電話
出会いサイトにメッセージを残す。“お金持ちの、優しいヒトがスキです。メール、待ってます”。かたっぱしから金を巻き上げてやろうと思った。AVが嫌いなのは、みんなにレンタルで380円、ビデオを買ったとしても2000円か3000円かで見られて、つまらなくなったらポイってすてられるから。だからあたしは1回きりの関係で、ひとりの男から大量の金を巻き上げる。それで満足。かも。しれない。

あたしの値段なんて、どうせ2〜4万だ。随分、安い女だって思う。人間って、売ったり買ったりできるんだなぁ。あたしは女と言うだけで、他に何も持っていなくてもお金が稼げる。女だからいいんだ。女だから。





2002/07/13(土) 携帯電話
昨日のメッセージへの返信のメールが沢山届いた。朝から待ち合わせをして、ホテルに行った。はじめの男は、なんだか香水臭くて嫌だった。あたしもアナスイのスイドリームスという香水をつけてはいるけれど(あたしは甘い匂いがスキなので)、その男の香水は、あたしにとって酔うタイプのモノだった。すぐにはじめて、おわったら帰してもらう、というのをくりかえして、あたしは今日20万稼いだ。今までで最高記録だ。だけど今日は疲れた。何人も相手にすると、やっぱり疲れるものだ。





2002/07/14(日) キス
今日、あたしを買った男はキスがうまかった。軽く何度かキスをかわし、それから血が出る程濃厚なキスを交わした。モリチカのキスはとても熱っぽく、あたしはとてもスキだったのだけれど、あの男のキスはそれとは別に何かからりとした中の熱さがあって、なぜかあたしはとてもどきどきした。

セックスしたくて、近付いて愛しているふりをして、つきあって、して、すてて。そういうのより、ずっといい。





2002/07/15(月) 1週間と1日
モリチカからメールが届いた。

『会いたい。綾香。どこにいる?』

あたしは返した。

『地球』

モリチカは、きっと怒ってる。

『生きててくれてよかった。
 金ならいくらでもある。
 綾香に会いたい。
 お願いだから、真面目にきいて』

何かあったんだ、と思った。
誇り高いモリチカは、下手にでたりしない。

『わかった。あたし、あなたの家に行く』

モリチカは、手首を切っていた。





2002/07/16(火) ボランティア
病院には行かず、なんとか止血をして、未遂に終わった。モリチカは今、自分のベッドで何ごともなかったように眠っている。あたしは裸になって、そのとなりで添い寝した。モリチカが、そうしてって言ったから。モリチカはあたしを抱き締め、閉じたばかりのキズに包帯を巻かれた手であたしを自分に近付けた。あたたかい。モリチカ、死んだら終わりだよ。あんた、復讐できないじゃん、と、眠っている彼の耳に囁いた。聞こえないコエでいい。あたしのホットミルクみたいな体温も忘れちゃうよ。

今日は、お金はいらないよ。





2002/07/17(水) ボランティア2
青すぎる空は嫌いだって、いつも言っているでしょう。
だけど朝は白すぎた。昼は蝉の声と涼しい風が吹いていた。

今日はモリチカがケーキを作ってくれた。モリチカがケーキづくりなんて、わらっちゃった。どうやって作ったのか聞くと、モコモコ、というミックス粉で簡単にできるそうだ。それに一緒に飾り付けをした。『モリチカ、誕生日おめでとう』と書いた。モリチカの誕生日は今日じゃない。モリチカの2回目の誕生日が今日なんだ、ということにした。だってモリチカは、一度手首を切って死んだんだから。

家にいるお手伝いさんの視線が痛かった。あたしとモリチカの関係を知っているのかとも思ったけど、そんなことはないと思う。きっとあたしの外見のせいだ、と納得。





2002/07/18(木) ボランティア3
あたしはなんだか心配で、まだモリチカの家にいる。モリチカがどうして手首を切ったのか、はドウデモいいけれど、モリチカがまた手首を切らないか、もドウデモいいけれど。だけどどうしてか、心配だった。きっと、あたしが残される事が恐いんだと思う。あたしたちは、お金のつながりだけど、あたしは今日だってお金をもらっていないし、求めていない。じゃあどんなつながりなの、と聞かれるととても困ってしまう。あたしたちはどんなつながりなの。お金じゃない。友達でもない。肌を求めあう、つながり?

モリチカは学校に行かずに勉強を続けている。高校生だっていうのに、モリチカがやっているのは大学レベルの問題だ。モリチカは、総合的に偏差値が74をこす。東京大学くらい、行けちゃうんじゃないかって思う。これも、モリチカの言う復讐のためなんだろうか。

あたしはモリチカの家のキャリー(犬)にごはんをあげたり、ピアノをひかせてもらったり、ごはんを作ってあげたりした。モリチカがこんなになっているというのに、モリチカの親は一度も家に帰らない。

これから、モリチカと買い物に行ってくる。今日の夜は、すきやきにしよう、って無表情ではりきってモリチカが言ったから。

------

モリチカと買い物に行きがてら色々話した。スキなモノとか嫌いなモノ。大切にしたいモノとか不必要なモノ。スキなモノは、ない。会いたいヒトならいる。嫌いなモノ、沢山あり過ぎて言い切れない。大切にしたいモノ、お金。不必要なモノ、身体。あたしはまだやっぱり、女であるコトを諦めきれなくて、矛盾した意味不明な話をモリチカにきかせてしまった。バカみたい。モリチカは、バカにしたりはしない男だけど。

モリチカは、あたしと混ざった事が何度もある。モリチカに話は通じたかな、と思ったけどそれを自分で打ち消した。身体を重ねても、ココロは重なっていないって、あたしはわかっているから。

モリチカは、石をけって溝にいれた。モリチカは変わらず無表情で淡々と喋る。人間らしくないように見えるけど、モリチカは苦しんでいる。「苦しんでいるんだよね」なんて、弱いところを見せてないヒトが言われたらとても辛いから言わないけど、モリチカは人間なんだ。あたしだって、人間だ。

いくら母親の恋人に犯されたからって、援助交際をくりかえしているからって、あたしは人間だ。許されますか?
あたしが許せばいいって思っていたけど、いつか誰かに認めてもらいたいって夢見ている。





2002/07/19(金) 愛人契約
久しぶりに稼ぎに立っていた。今日、あたしを買った男は28歳で会社持ち、妻子持ちだった。その男の名前は谷村と言う。谷村はあたしに「どうしてこんなことをしているのか」を聞いてきた。こいつはあたしを買っておいて説教するつもりなのか、あたしはドコに帰ればいいんだってイラついて、食べて行く為、と至ってシンプルに答えを返す。すると谷村は、「愛人契約をしよう」と言ってきた。

あたしは谷村の愛人になった。
マンションは谷村が借りてくれるらしい。これであたしは、眠る場所に困らない。

モリチカは、あたしの乳房に噛み付く。あたしは、「痛い」と言う。そのあとに、言われた。

「綾香がいてくれてよかった。だけど、綾香がいると苦しい。人の肌があると苦しい。俺はひとりでいい。これから俺はひとりで家をでる。綾香にはたまに連絡する。綾香はドコにいく?」

「あたし、生きていけるから」

モリチカは今ごろ、もう家を出ていると思う。モリチカの隣で添い寝して、『お金はいらないよ』って思ったあの時から、モリチカは既に苦しかったんだと思う。実際、あたしも苦しかった。今思えば。あたしは、谷村の腕に抱かれながらモリチカがシアワセになれるように祈った。





2002/07/20(土) メモ
・早速、そのマンションにあたしは入った。
・マンション(びっくりするくらい、綺麗で広い)
・足りていないものを買ってもらう。
・ひとりで眠る大きなベッド





2002/07/21(日)平凡な日
久しぶり、本当に久しぶりにテレビを見たけれど、面白いモノなんてなんにもやっていない。ゲーセンだって全然面白くない。何かもっと面白いものないかなぁと探した結果、小説を読もうということになって、このマンションの近くにある図書館に歩いて行った。今日はとても暑くて、汗がにじみ出た。図書館では夏休みにはいった中学生が、友達同士で宿題をやっていたりした。あたしはそれを横目で見て、それから小説を選んで借りた。6冊借りた。今度は1週間後に来ようと思う。家に帰ってから、借りた小説をぼんやりと読んでいた。学校の教科書なんてダイキライだったあたしだけど、わりと本を読むのは好きみたいだ。

谷村が夜にマンションに来た。あたしは谷村にとりあえず、「こんないい所をあたしの家にしてくださって、どうもありがとう」と言う。谷村は、日に灼けた肌に笑い皺をよせ、べつに気にしないで、と言う。こんなに爽やかな、こんなにイイヒトそうなヒトでも、『愛人』なんて作っちゃうんだなぁ。ますますヒトが信じられなくなる気がしたけれど、とりあえず谷村がいてよかったんだから、大人しくしておく。





2002/07/22(月)読書
今日も本を読んで過ごす。
ひとりが寂しくて、谷村に言ったら、
CDプレーヤを買ってきてくれた。
あたしはCDを買いに、タワーレコーズまで行った。





2002/07/23(火)疑問
あたし、生きている、自然?





2002/07/24(水)花屋
マンション近くを探検。お散歩していた。あたしが気に入ったのは、花屋『ハッチ』。あたしはソコで、鉢植えを1つ買った。四葉のクローバーがでるらしい。あたしは家に帰って、まだ芽のでていないそれに水をやった。ハッチのお姉さんは、蜂谷さんと言う。店員さんにコエをかけたりかけられたりがダイキライなあたしだけど、なぜか蜂谷さんとはお友達になりたいと思った。あたしが友達になりたいって思うなんて、初めてかもしれない。蜂谷さんはとても優しい雰囲気の、『おねえさん』的なヒトだった。

近くのマンションに住んでいる、と言ったら、

「なら、また遊びに来て。お店の奥、あたしの家だから」

蜂谷さんと遊ぶ約束をしてしまった!とても嬉しい!





2002/07/25(木)寝坊
起きてすぐにクローバーに水をやる。

ハッチに行くついでに本屋に寄る。気になる本が売っていたのでそれを購入する。
ハッチについたら、蜂谷さんがあふれる笑顔で、綾香ちゃん!とコエをかけてくれた。

蜂谷さんと色々なお喋りをした。蜂谷さんは今26歳だ。
大学を出て、花屋をひらいた。彼氏はいる。
ひとりぐらしをしている。高校ではデザインを勉強した。

蜂谷さんは色々なコトを話してくれるけど、あたしは話す内容がナイことに気付いた。援助交際をやっていました。愛人契約で借りてもらってるマンションでひとり暮らししています。親は母親しかいませんが、家出してずっと帰っていないので、どうなってるか知りません。親の恋人に犯されました。ヒトの財布からお金を盗みました。ねえ、あたしはこんなコトを言えるの?あたしは気分がぐらぐらとゆらぎ、蜂谷さんはそれを察してくれたのか、あたしにアイスコーヒーをくれた。

「綾香ちゃんは、花がスキなの?」

と聞いてきた。あたしは、わかんない、とくびをふる。

「だけどあたし、ハッチはスキだよ」

「うふふ。ありがとう」

家に帰ってから、買った本じゃなくて借りた本の方を読む。





2002/07/26(金)理由
あたしがどうして花がスキなのか、わかった。
あたしがなくちゃ生きられないからだ。

クローバー、早く芽が出ないかな。
かなりの溺愛ぶり。名前でもつけちゃいそうな勢い。





2002/07/27(土)図書館
なんかわかんないけど、図書館のあの独特な雰囲気、あたしの好みそのものだ。ためいきがひびくなんて!

カゼをひいたみたいで、ノドがいたい。谷村に言ったら、明日、病院に行け、と言われた。谷村は今日マンションを訪れて、あたしとセックスして、それから一緒にコーヒーを飲んで帰って行った。





2002/07/28(日)最低な男
持田に会ってしまった。あたしが行った病院の医師のひとりだった。信じられない。自分の恋人の娘を犯すような奴が医者だなんて。診察室に入り持田の顔を見た途端に逃げ出そうとしたあたしの腕を持田はグっとつかみ、あたしは診察室でまたしても犯された。援助交際をして、不確定多数の男と関係を持って、今さらレイプでどうのこうのって、あなたそれどうなの、と聞かれてもイヤなモノはイヤ。あたしは乱れた服を直し、お金なんて払わずに出て行った。

あたしはいつか、持田を殺すと思う。

谷村に「ひとりで眠れない」と電話をした。だけど断られた。そりゃあね。谷村には家庭があるものね。





2002/07/29(月)くるしい
久しぶりに食べたものをもどす。朝はトースト、昼はカレー、夜はシチューを食べたけど、全部吐き出してしまった。今日は早く寝ようと思う。





2002/07/30(火)芽
芽が出た。クローバー。
あたしをシアワセにしてッて、切に願っている自分の姿に気付いた。あたしは、あたしがいなきゃ生きられない
クローバーを可愛がっていたはずなのに。何にでも願掛けて。誰かが言っていた言葉を思いだした。

叶わない願いがあるから、ヒトは星に願いごとをする。





2002/07/31(水)ハッチ
ハッチに行ったら、蜂谷さんの恋人が来ていた。あ、おじゃまですか、と聞いたら蜂谷さんは笑いながら、否定した。恋人はサラリーマン風の日焼けした背の低いヒトで、だけどガッチリと筋肉質な体つきをしていた。この店の近くに職場があるらしい。蜂谷さんと恋人サンは、とても仲がよさそうだ。途中で、そろそろ昼休みが終わるから、と言って彼が帰った。あたしも同じくらいの時間に、家に戻った。

ごはんを食べたけれど、吐いてしまう。

夜に近くのコンビニにコーラを買いに行ったら、あたしがずっと会いたかったヒトに会えた。あたしはこの機を逃したら会えないかもしれない、と思い、コエをかけた。最近のあたしは行動的だ。そのヒトの名前は、シンヤと言う。あたしとシンヤは、コンビニの駐車場で少し話した。驚いたことに、シンヤはあたしの家の近くにある養護施設に入っていたらしい。もしかして、ずっとまえにモリチカが言っていた『友達』なのかもしれない、と思い聞いてみる。すると案の定、モリチカのコトを知っていると言った。すごい偶然。運命かもしれない。あたしは家に帰っても、しばらくシンヤの事が忘れられず、眠れなかった。