眠れぬ夜3


上松 弘庸



夢の中を泳いでいた。
余りにも穏やかな流れだった。時間という概念が欠如しているからかもしれなかった。
欠如しているのは時間だけではなかった。空間というものが欠如していた。現実性というものも欠如していた。つまり、一口に言って全てが不完全だった。

我慢する必要がなかった。
言いたい事を我慢したり、やりたい事を我慢したりする必要がなかった。
無理をして笑う事もなかった。泣きたい時には泣けばよかった。

人々は僕の事を虚無だと思うだろうか。
僕は空っぽになってしまった。そう。すっかり空っぽになってしまった。
ただ、満たされない事に嘆く事もない。
青い空も、赤い土も、緑の木々も此処にはなかった。

同じ所をぐるぐる回る針があった。
針が一周して元の位置に戻ると、別の針が少し動いた。その別の針も、よく見たら同じ所を回っていた。多分、その針が元の位置に戻ると、また別の針が動くのだろう。
針はあとどれだけ同じ所をぐるぐるぐるぐる周るつもりなのだろう。ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる………。

初めと終わりがなかった。
まるで、全ての初めと全ての終わりが繋がっているみたいだった。何処が初めで、何処が終わりなんだろう。多分、初めも終わりも何処でもいいんだろうと思う。僕がある場所に立ち止まって、「皆さん聞いて下さい、此処が僕のスタートラインです。此処にしました」、と声高々に宣言すれば、きっと其処がスタートラインになるんだろうと思う。でも、そうするとゴールは何処なんだろう。僕は何処に向かって走ればいいんだろう。360度周りを見渡したって、ゴールらしき場所は見つからなかった。僕はスタートラインを決めたのに、ゴールを決める事が出来なかった。僕は何処に向かえばいいんだろう。僕は何処に向かっているんだろう。ぐるぐるぐるぐる同じ所を周っている気がする。1週してスタートラインに戻って来た気がする。僕が1週すると、何か変化があっただろうか。例えば、他の誰かがほんの少し前進した、というような変化が。僕が走る為に、他の誰かが走っているのだろうか。何もない、この世界で。ぐるぐるぐるぐる走っているのだろうか。

眠れない。眠れない。眠れない…。




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