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【劣化ウランに関する抜粋】
「イラクの環境に関する机上調査」より
国連環境計画 2003年4月

国連環境計画(UNEP)


この文書は、国連環境計画(UNEP)が2003年4月に発表した報告書 "Desk Study on the Environment in Iraq" から劣化ウランに関する部分を抜粋し日本語訳したものである。
翻訳は http://postconflict.unep.ch/publications/Iraq_DS.pdf に基づいている。

英語対訳付きはこちらからどうぞ。

【TriNary :: Transcript 劣化ウラン概要報告シリーズ】

4 軍事紛争の環境影響

4.3 湾岸戦争 ― 1991年

多国籍軍による劣化ウラン(DU)弾の使用

湾岸戦争では(コソボでの 9 トン、ボスニア・ヘルツェゴビナでの 3 トンに対して)、総計で実に 290 トン以上の劣化ウラン弾がアメリカ軍によって発射され、劣化ウランは塵や小片として環境に残存している[78],[79]。劣化ウラン弾は以下に配備されていた:

世界保健機構(WHO)は 2001年 8月[80]、イラクの DU が健康に及ぼしうる影響について、調査する考えをまとめた。

A-10 Thunderbolt aircraft accounted for more than 80%
of the depleted uranium rounds fired in the Gulf War
湾岸戦争で発射された劣化ウラン弾の 80% 以上は A-10 サンダーボルト攻撃機によるものである。
UNITED STATES AIR FORCE

この研究は三つの領域 ― 病気(特に癌と先天性奇形)の監視、もしかしたら影響を受けたかもしれない人々の DU の測定、および防止/研究活動 ― を網羅することを意図したものである。しかしながら、支配的な政治的背景のために、このような調査は全く行なわれなかった。1995年、DU によって引き起こされうる危険を明らかにするための予備的な研究がクウェートで行なわれた。クウェート住民の吸引による DU の一人当たりの総摂取量は 0.05 ベクレルと算出された。これは一般住民に対して勧告されている年間摂取量限度の 0.2 % 以下に過ぎない[81]。クウェートは全国レベルで行なわれている DU 研究の結果について評価してくれるよう IAEA に対し援助を要請した。その結果、IAEA 研究所はクウェートの様々な地域から、エアフィルタ、水、土壌、および DU 貫通体断片を含む30試料を分析した[82]

4.4 イラク戦争(2003年3−4月の紛争)による環境影響と危険

劣化ウラン

劣化ウランは原子炉や核兵器の燃料として利用するために天然ウラン鉱石を濃縮する過程で得られる副産物であり、防御と攻撃の両方の軍事目的に応用されている[109]。その高密度性は装甲板の材料として適しており(例: アメリカ軍エイブラムス M1 主力戦車の回転砲塔の一部)、また装甲を貫通する目的にとっても同様である。現在、劣化ウラン兵器は航空機(ヘリコプターを含む)と戦車で使用されるべく生産されている。

この紛争の間、多くのイラク軍戦車や装甲兵員輸送車(APCs)が、一連の軍事作戦において使用されたアメリカ軍 A-10 サンダーボルト(「イボイノシシ」または「戦車破壊者」[1])攻撃機の標的となった。多国籍軍による DU の使用は 3月26日にアメリカ中央軍によって事実が確認された。

30 mm depleted uranium round
30 mm 劣化ウラン弾
FEDERATION OF AMERICAN SCIENTISTS

A-10 は通常型ミサイルだけでなく、劣化ウラン(DU)弾を発射する機関砲も装備している。4月 8日にメディアによって放送されたテレビ映像では、バグダッドの計画省と情報省の両方を攻撃する A-10 攻撃機が映されていた。専門家は、これらの攻撃では劣化ウラン弾が使用されたと考えられる、と述べた。一方で、アメリカ軍エイブラムス戦車が炎上し、DU が環境に放出されたらしいことがわかった。

Iraqi soldiers stand on top of a destroyed US tank in the southern outskirts of Baghdad
バグダッド南郊で破壊されたアメリカ軍戦車に上るイラク軍兵士たち
GORAN TOMASEVIC - REUTERS

Iraqi Planning Ministry during an A-10 air strike
A-10 の空爆を受けるイラク計画省
FALEH KHEIBER - REUTERS

しかしながら、DU 塵の時間分散が生じた紛争後の数年間にも、バルカン諸国において UNEP の活動が行なわれていたことは、強調されてしかるべきである。現在、イラクでは、2003年の 3月と 4月に DU に標的とされた場所の近くで、できたてほやほやの地表汚染が存在しているはずである。高品質の防塵マスクを着用しない限り、このような場所の半径約 150 m 以内に立ち入る際には DU を吸引する危険性が高いと、UNEP の専門家は予想している。この半径内における DU 塵の吸引はウランの潜在的化学毒性とその放射能特性の両方のために健康上の危険を引き起こしかねない。

さらに、イラクの環境条件(特に気候、土壌、地質、植生)がバルカン諸国で支配的なそれとは非常に異なっており、腐食速度や DU の環境的経路の点でも重要な違いあるかもしれない、ということを強調しておくことも重要である。したがって、もし汚染地域に数週間、数ヶ月、あるいは数年先までいる地元住民、軍人、およびその他の人々に、人間の健康と環境に対する危険に関して適切で正確な助言が提供されるべきであるならば、別途科学的調査が行なわれることは重要である。

伝えられるところによれば、DU は1991年の湾岸戦争の間、バスラ周辺で広範囲にわたって使用されたとのことである。したがって、12年を隔てた二つの紛争による DU 汚染が共に存在するような場所が、将来の現地調査によって発見されそうである。DU は1991年にクウェートでも使用され、2002年に IAEA によって汚染地域の研究が行なわれた。

5 今後の課題

5.1 概況

イラク戦争(2003年の3月と4月の紛争)は、イラクの主要な都市部、特にバグダッドおよびバスラに集中していた点で、1991年の湾岸戦争とは著しく異なった。 結果として、環境上の影響もまた非常に異なり、最も顕著な問題は油溝火災による大気汚染と水道や電力供給といった基幹設備に対する被害であった。

しかしながら、これはその結果が取るに足らないものであるということを意味しているわけではない。既に知られた種類の影響の中には、環境上の設備(例:上下水道)に対する物理的被害、軍事および産業施設への攻撃、そして潜在的に危険な物質の結果的な漏洩、油井や油溝の火災による大気汚染、軍事活動や劣化ウラン(DU)弾の使用による生態系や景観の破壊があり、広範囲な環境汚染が未知のレベルで、あるいは未知の結果を伴って、引き起こされているはずである。

5.2 今後の課題

Step 1. 地表の状況の評価と環境援助を準備するための技術的優先事項の確認
Step 4. イラクが直面する慢性的環境問題に取り組むためのデータベースの作成

付録 A

参考文献とインターネットソース

4 軍事紛争の環境影響

[78] http://postconflict.unep.ch/publications/du_final_report.pdf

[79] http://www.islam-online.net/english/Science/2002/03/article1.shtml

[80] http://www.reliefweb.int/w/rwb.nsf/s/173D4094241F7592C1256AB1005B3B30

[81] Bourabee, F. 1995. Estimating the concentration of uranium in some environmental samples in Kuwait after the 1991 Gulf War. Applied Radiation and Isotopes. Vol. 46, N4 (apr), p. 217-220.

[82] http://www.iaea.or.at/worldatom/Documents/Anrep/Anrep2001/ human_health.pdf

[109] For background information on UNEP's work on depleted uranium, see http://postconflict.unep.ch/activities.htm - du

[110] http://www.centcom.mil/CENTCOMNews/Transcripts/20030326.htm

[111] http://www.deploymentlink.osd.mil/du_library/gulfwar.shtml

[112] http://postconflict.unep.ch/publications.htm - du


【訳注】

[1] 'warthog' or 'tankbuster'
A-10 攻撃機の愛称。


【訳者後記】

2005年10月5日の深夜にNHKで放送されていた BSドキュメンタリー 「アルモーメンホテルの子どもたち〜がんと闘うイラクの家族」 の最後のほうで、癌の原因は劣化ウランではないか、という言及があり、この文書の一部が引用されていました。
そこで今回はこの文書のうち、劣化ウランに関する部分を抜粋し翻訳してみました。

Possible migration of DU into ground water (and from there into drinking water supplies), through corrosion and dissolution of penetrators and penetrator fragments.
貫通体および貫通体破片の腐食と溶解による地下水(およびそこから飲料水供給)への DU の流入の可能性。

Identify sites targeted with DU by obtaining information on their locations from coalition governments.
多国籍軍諸国より DU の標的となった場所の位置に関する情報を入手し、その場所を確認する。

NHKで引用されていたのは上の二箇所ですが、さてこの引用の仕方、妥当だったでしょうか。どうでしょうか。

- sennju(TriNary
公開:2005/10/08

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© 2005 TriNary

ただし、この日本語訳は国際連合の著作権を侵害してるかもしれません。
http://www.unep.org/Documents.Multilingual/Default.asp?DocumentID=289&ArticleID=3446
http://www.unep.org/Documents.Multilingual/Default.asp?DocumentID=289&ArticleID=3447
国連からクレームがくれば引っ込めます。そんな素敵な事件が起こるとは思えないけれど。
それらの点を踏まえて使ってください。自己責任で。

この日本語訳は非公式なものです。UNEPの見解を正確に伝えているという保証はありません。


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